中村哲さん「アフガン復興」21年取材で見た想い 現地の人とともに生きてきた、その人物像とは

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――映画にはプライベートな面はあまり出てきませんね。

本来、取材されることを好むような方ではないんです。初期の頃に家族を取材させてほしいとお願いしたら、すごい目力で「私の事業と家族とは関係ありません」と言われ、プライベートなことは聞くまいと決めました。

ドキュメンタリーの取材には、挑発的な質問をするとか、批評性を持つとか、いろいろな手法がありますが、私の場合、取材者と取材対象者の関係を超えてしまった感じがしていました。私が中村医師に惚れてしまったというか、強い信頼関係ができている自負はありました。だから、ひたすらそばで撮らせてもらったんです。

これでよかったのかどうかは後世の人に判断してもらうしかありませんが、だからこそ21年間の取材を許してくださったのだろうなという気はしています。

全長27kmのマルワリード用水路。建設には精密な測量と掘削が求められた。2006年4月 ©Nihon Denpa News Co.,Ltd.

家族の死が復興に向けて背中を押す

――そんな中で中村さんの10歳の次男が亡くなったことは描かれていました。

映像の制作中、中村医師はなぜ自分の全存在をかけて水路を掘り進めることができたのかを改めて考えさせられました。困っている人に手を差し伸べる素朴な正義感、持って生まれた気質に加えて、拍車をかけたのは次男の死だったのではないか。次男の死が背中を押して二人三脚で掘ったんじゃないかという気がするんです。

家族といえば、映画の中で流れるモーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」は三女の中村幸(さち)さんがピアノを弾いてくださっています。中村医師はモーツァルトが好きだったので。

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