2011~12年のグローバル・マクロ経済シナリオは「弱含みの回復」で変わらず《ムーディーズの業界分析》
クレジットオフィサー エレナ・ダガー
チーフ・リスクオフィサー リチャード・カンター
ムーディーズは、グローバル・マクロ経済シナリオの中で最も実現の可能性が高いシナリオは、「弱含みの回復」という見方を継続する。すなわち、グローバル経済は2009年の景気後退から緩やかなペースで回復を続け、いずれ潜在成長率に戻るが、その過程で失業率の高止まりと財政赤字が継続するというシナリオである。グローバル経済が回復を示した10年には、不確実性の高まりが見られたものの、先進国は堅調な成長を維持し、多数の新興市場国は非常に力強い成長を示した。とはいえ、11年も、景気回復のためには多くの課題が残されている。
いくつかの高所得国では、レバレッジ解消(債務の削減)への取り組み、失業率の高止まり、長引く不動産市場の問題などが、引き続き成長の足かせとなるだろう。さらに、市場規律の働きによって、財政再建が政策上の優先課題となった。この状況は、今年だけでなく、来年以降も継続するだろう。一方、それ以外の地域の経済成長によって、景気が「二番底」に陥るリスクは制約されるだろう。銀行セクターや信用市場の混乱の影響を受けなかった国では、持続的な景気回復が続く。新興市場国では堅調な成長ペースが持続するとみられるが、大半の国ではトレンド成長率に向かって成長ペースは緩やかになっていく、と予想される。
このような見通しに対するダウンサイド・リスクは残っており、マクロ経済の見通しは、依然としてソブリンの見通しに左右される状況にある。
ユーロ圏では、ソブリン債市場と銀行システムのリスクが、金融・財政の複雑な連鎖と揺らぎやすい市場の信認の悪化を通して相乗的に高まったため、危機感染の抑制が中心的な問題となっている。
景気回復を阻害することなく、現行の経済・金融支援策と財政緊縮政策を、適切なバランスをとりながら実施していくことが、一層重要となっている。
同時に、大幅な金利上昇によって、先進国の財政再建が一層困難になるリスクが迫ってきた。
最後に、新興市場国における資本流入の増加、インフレ、そして資産価格の上昇に対する懸念が高まっている。