第一三共、「時価総額7兆円」支える乳がん薬の底力 主力製品「エンハーツ」の投与対象が大幅拡大か

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WHO(世界保健機関)によれば、2020年に約230万人の女性が乳がんと診断され、68万人が亡くなった。世界で最も罹患者数の多いがんで、日本でも女性の部位別罹患数での1位は乳がんだ。

年間の死亡者数では大腸がんや膵臓がんなどが上回るが、乳がんは罹患のピークが40代から60代に来るのが特徴。多くの患者が子育てや仕事をしながらの治療となるため、副作用が少なく、より早期の社会復帰を促すような治療薬が待ち望まれている。

乳がんは、がん細胞の性質などによって大きく4つのタイプが存在し、それぞれで治療法が限られているのが現状だ。エンハーツが対象とするのは、HER2(ハーツー)というたんぱく質が、過剰に発現するタイプの乳がん。この「HER2陽性」タイプは、乳がん患者全体の約2割に相当する。

ところが今回の第一三共の発表によると、HER2陽性タイプではない乳がん患者にも、新たな治療法としてエンハーツが追加される可能性が出てきた。対象となるのは、同社が新たに定義した「HER2低発現」と呼ばれるタイプの該当者で、乳がん患者全体の約5割に当たるという。

既存の化学療法と比べ死亡リスクを半減

乳がん治療では現在、がんの増殖に関わる女性ホルモンの受容体の「陽性」「陰性」と、HER2の発現状況のスコアに応じた「陽性」「陰性」の判定結果でタイプが分けられ、それぞれで治療方法が異なる。だが第一三共は現在の基準で「HER2陰性」と診断された場合でも、HER2の発現が一定程度認められる人に対し、エンハーツの有効性がないかを臨床試験(治験)で確かめてきた。

第一三共の主力製品に成長したエンハーツ(写真:第一三共)

治験では、化学療法による治療を受けたHER2低発現の患者に対してエンハーツを投与し、化学療法で治療する患者との比較検証を実施。その最新データが発表されたのが、6月のASCOだった。

結果報告によると、エンハーツを投与した患者は化学療法で治療する患者と比べ、症状が悪化せずに生存した期間が4.7カ月延び、死亡リスクを半減させた。さらに化学療法の場合より、腫瘍の消失や減少の効果も高かった。

今回の発表が業界に衝撃をもたらした理由は、それだけではない。治療方針の基本となるタイプに、「HER2低発現」というまったく新たなカテゴリを確立した点でも、「乳がん治療の教科書を大きく変える発表」(業界関係者)と捉えられている。

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