第一三共、「時価総額7兆円」支える乳がん薬の底力 主力製品「エンハーツ」の投与対象が大幅拡大か

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第一三共は、HER2低発現タイプの乳がん患者への対象拡大に向け、すでにヨーロッパや日本で承認を申請。アメリカでは、2022年度内にも承認される可能性がある。

対象患者が拡大すれば、売り上げにも直結する。イギリスの調査会社Evaluateは6月、エンハーツの2028年の売り上げが64.5億ドル(9000億円弱)に上るとの予想を公表している。

2022年2月にHER2低発現の乳がん患者を対象とした最終段階の治験結果を発表した後から、第一三共の株価はじりじりと上昇し、7月12日には年初来高値を記録。直近の時価総額は約6.8兆円と、国内の製薬会社で売上高トップの武田薬品工業(時価総額は約6.3兆円)や同2位のアステラス製薬(同約3.9兆円)を抜いて、現在は業界首位へと躍り出ている。

市場の評価を支えるのは、エンハーツだけではない。第一三共はエンハーツと共通するADC技術を用いた別の治療薬を複数開発中だ。同社はエンハーツと、これらの薬の貢献を含めた2025年のがん領域での売上高を6000億円と見積もるが、それを大きく上回る可能性もある。

技術特許をめぐり不安の種も

ただ、この盛り上がりに水を差す動きもある。エンハーツの肝であるADCという技術について、かつて第一三共が共同研究をしていたアメリカのシージェン社が、特許侵害をしているとして第一三共を提訴しているのだ。

アメリカ・テキサス州の地方裁判所は7月20日、第一三共側が特許を侵害しているとし、シージェンへ約57億円の支払いを認める判決を下した。その前日には米国特許商標庁も、第一三共がシージェン側の特許の無効を申し立てていた審査について、手続きを進めないとする決定を発表した。第一三共はこれらの決定を不服として、「あらゆる法的手段等を検討する」とコメントしている。

もっとも、シージェンとの確執によってエンハーツやADCの有望性自体が揺らぐわけではない。第一三共を支える抗がん剤の今後の展開に、医療現場、そして株式市場は熱い視線を注いでいる。

兵頭 輝夏 東洋経済 記者

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ひょうどう きか / Kika Hyodo

愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。

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