教科書で習う那須与一「扇の的」何とも意外な事実 舞台である「屋島の戦い」に戦らしい戦はなかった

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日暮れが近付き、戦はまた明日かというときになって、平家がいる沖のほうから、小舟が一艘現れ、汀(みぎわ、水際)に向けて漕ぎ寄せてくる。舟上では、18歳ばかりの優美な女房が紅の袴を着て、扇(紅の地に金色の日を描いたもの)を船棚に挟み、手招きしている。その様を『平家物語』は次のように描く。

「さて、阿波・讃岐国において、平家に叛き、源氏の軍勢がやって来るのを待っていた者たちが、あそこの山やここの洞より、14、15騎、20騎と共に現れたので、源義経の軍勢は300余騎となった。『今日はもう日暮れ。勝負を決することはできない』といって引き揚げようとしたところに、沖のほうから、立派に飾った小舟が一艘、汀に向けて漕ぎ寄せてきた」(『平家物語』を筆者が現代語訳)。

(この扇を射てみよ)ということを悟った源氏方は、下野国の住人・那須与一宗高を選抜し、その役に当てる。与一は20歳の若武者。萌黄威の鎧を着用し、足金を銀で作った太刀をさし、滋籐の弓を脇に挟んでいる。

命令を一度は拒んだ那須与一

義経の御前に参上した与一は「射損なえば、味方の恥となりましょう。確実に射落とせる者にお命じください」と命令を拒むが「私の命令に背いてはならぬ。異論を唱えるなら、ここから去れ」との義経の厳命により、渋々、大役を引き受ける。

海に馬を乗り入れる与一。扇と与一との距離は約75メートル。しかも日暮れどきであり、北風で波も高い。沖では平家方が舟を並べて見物している。陸でも、源氏方が馬のくつわを並べて見つめる。

緊張のなか、与一は目を閉じ「南無八幡大菩薩、どうかあの扇の真ん中を射させてください。もし射損なうことあれば、弓を切り折って自害する覚悟。どうかこの矢を外させなさらないでください」と祈念すると、再び目を開く。風は少し弱まっていた。

与一は鏑矢をとり、弓につがえ引き絞り「ひょうと」射放つ。

次ページ矢は見事に命中
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