福岡の17歳が撮った映画に上映依頼が殺到の訳 起立性調節障害の女子校生が自身の半生を撮る
撮影中は、SNSで積極的に撮影の様子を発信。地元のメディアにも取り上げられ、起立性調節障害の当事者をはじめ、さまざまな人から声が届くようになると、西山さんの気持ちに変化が表れた。
「応援してくれる人が増える一方、やはりポジティブなコメントばかりではなくて…。病気の私が映画をつくることで、『自分も頑張れる』と救われる人もいれば、『自分にはできない』と傷つく人がいるとわかりました。だから、夢があるって素晴らしいというトーンではなく、同じ目線に立って寄り添える映画にしたいと思うようになりました」
そして撮影中には、当初掲げた映画ワールドカップで「日本一になる」という目標より、「映画館でお客さんに直接届けたい」という思いが強くなった。予定していた2020年の甲子園への出品は延期して、もっと時間をかけて丁寧に作ろうと決断。「当事者に寄り添うような映画を、劇場でお客さんに届けるために、みんなで完成を目指しました」(西山さん)
小田さんは脚本を仕上げると、ロケ場所の撮影許可を取ることに奔走した。相手は行政や警察がらみが多く、窓口が平日昼間しか開いてないこともあり、夕方まで授業がある高校生活とのやり繰りは難しかった。許可してほしいと電話をかけても、何度もたらい回しにされたり、高校生には協力できないと取り合ってもらえなかったりしたという。
「1カ所許可を取るために何度もお願いに行き、数カ月かかることも。でも妥協はしたくなかった。いきなり怒られることもあって、正直ちょっと大人が怖くなりました(笑)」(小田さん)
負け犬だけど負けたくない
8カ月にわたる撮影中、印象に残っているのはどんなことだろう。西山さんは「めちゃくちゃあって迷う」としばらく考えた後、踏切のシーンをあげた。夜、踏切のカンカンという音がした後、制服を着た夏実が裸足でフラフラと歩き、ボーっとどこかを見つめているシーンだ。
「私が7キロくらい痩せて精神的にどん底だったときの再現です。メイクの子が見事に病んでいるメイクをしてくれて、主演の古庄のちゃんと演じようという思いもひしひしと伝わってきて。もう自分にしか見えなくて、撮影前にフラッシュバックして、近くのベンチでヤバいくらい泣いてしまいました…。日没前に撮影する予定が延びて、結局は夜の描写になりました。メンタル面で撮れなくなったのはそのシーンだけ。今でもふとしたときに思い出したりします」
小田さんにとって思い出深いのは、2021年3月クランクアップの日。「撮影は楽しいことばかりではなく、辛いことや乗り越えなきゃいけない壁のほうが多かった気がします。クランクアップの日はついに西山の体力が限界にきて、現場でぶっ倒れてしまい、かける言葉がみつからなくて。でも西山は『ここで撮影しないと、何もできなかった自分に戻ってしまう。負けたくない』と自分を奮い立たせて、撮影をやり切りました。みんなで泣きながら頑張ったねと喜び合った日のことは鮮明に覚えています」
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