福岡の17歳が撮った映画に上映依頼が殺到の訳 起立性調節障害の女子校生が自身の半生を撮る

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そして2020年4月、2年生になってすぐコロナによる休校で時間ができると、小田さんは一気に本を仕上げた。

できあがった本は「予想をはるかに超える出来栄え」(西山さん)。本に出てくる家族や友達などお世話になった人たちに読んでもらうため、100冊だけ印刷。その一部をサイトで売ってみたところ、同じ病気の当事者たちの目に触れて「もっと病気のことを広めてほしい」という熱い声が複数寄せられた。

「自分たちのためにやった活動が、誰かの支えになると初めて気付きました。たしかに私が当事者として一番辛かったのは、まわりの人たちの病気への無理解。それなら映画にして広めたいと思いました」(西山さん)

西山さんは小田さんの家に行き、1枚の紙を見せた。「映画ワールドカップ2020で日本一を取る」と題し、本を映画化すると記した企画書だ。メンバーはまだ小田さんのみ。

「日本一になるけん、やろう」と誘う西山さんを「いいよ」と受け入れた小田さんは、携帯のロック画面を「西山が日本一になる」に。「絶対にやらねばと決意しました」(西山さん)。

高校生活と撮影をどうにか両立

映画づくりに協力してくれる高校生をインスタグラムで募ると、26人が集まった。同じ高校の生徒に加えて、過半数は初対面の女子高生たち。総勢28人で「JK映画制作チーム」を発足。主演の夏実役は1年次のクラスメイト・古庄さんで、もともと西山さんが唯一病気のことを深く話していた友人だった。

一つひとつのシーンにこだわり、妥協せずに撮影を進めた。カメラで撮っている後ろ姿が監督の西山さん

映画のテーマは、起立性調節障害。とくに、病気のことを正しく表現することにこだわった。

「正確に伝えなければ、とんでもないことになってしまうという自覚がメンバー全員にあり、本や記事をもとに勉強会をして覚悟を持って臨みました。とくに夏実役は、ちょっとした演じ方の違いで当事者が不快に感じたり、まわりが白けてしまったりする可能性も。リアルかつ間違えないようにという緊張感が最初から最後までずっとありました」(西山さん)

スタッフは現役高校生のため、撮影に充てられる時間は限られている。平日の放課後から終電まで、土日は丸1日、あとは長期休みに詰め込んだ。西山さんは、さらに編集作業がある。

映像制作が好きだったとはいえ、西山さんが映画をつくるのは初めて。ほかのメンバーも素人ばかり。「本を脚本に書き換えて、撮影場所を探し、衣装や撮り方を考えて・・・。すべて手探りで、撮影までにしなきゃいけないことだらけ。とにかく必死でした」(西山さん)

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