福岡の17歳が撮った映画に上映依頼が殺到の訳 起立性調節障害の女子校生が自身の半生を撮る

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日本一を達成後、数々の団体や学校から上映依頼が舞い込んでいる。6月には関東で上映会を開催し、推薦によって海外での上映も始まった。10月には、世界中から3000作品が集まる全米学生映画祭への参加が決まっている。

「作品が広まっていくことは純粋にうれしい。毎日のように何百何千ものコメントがSNSに届いています」(西山さん)。「どこで観られるのかという問い合わせも殺到していて、観たいと言ってくださる人に届けることが使命だと思っています」(小田さん)

2021年7月、福岡の映画館で初の上映会を開催

ふたりは今年3月に高校を卒業。小田さんは大学生になった。「最近は歌詞を書いたりしています。西山に出会って、自分の中にあるものを見つけてもらった。その力を磨いていきたい」。映画については「病気を題材にしていますが、病気でなくても、集団にいても孤独を感じてしまう人、まわりと違うことで苦しんでいる人などが、それでもいいんだと思えるような、そして違うことは当たり前だと皆さんが思ってくれるような作品になっていたらいいなと思います」

西山さんは進学せず、今は治療に専念している。

「映画がひと段落して、やっと治療に専念できるようになりました。映像制作の道を目指すんでしょうとよく言われるけれど、これからのことは真っ白なんです。小さい頃から映像が大好きで、いつか映画をつくりたいと思っていたのに、いざ全部やり切ると、1周回って何がしたいのかわからなくなりました。それに、ずっと親に心配をかけてきたので、身体を大切にしてほしいという親の気持ちはちゃんと受け止めたいなと。身体をいたわりながら、自分の道を見つけていけたらと考えています」

人の心に寄り添いたい

何も決まっていなくても、西山さんに焦りはない。「中学時代、病気で学校に行けなかった期間はムダで、そのとき書いていた闘病日記は忘れるために捨てようとしたこともありました。でも、日記があったおかげで本ができて映画が生まれました。ムダだと思っていることほど、実は大事なんだと思えるようになりました」。

「最近、私たちの映画を知って、学生やサラリーマンやいろんな人が何かを始めたというメッセージが届いています。いろいろな人の日常に寄り添い、誰かが何かをしようと一歩踏み出すきっかけになれるとうれしいです」

中学2年生で起立性調節障害を発症し、孤独を抱えた友の文章に心揺さぶられて、17歳で自らの実話をベースにした映画の監督になった西山さん。「病気のことを広めてほしい」という当事者たちの声に突き動かされ、病と闘いながら、ときに社会の理不尽に打ちのめされても、チーム一丸となって映画を完成させた。

「映画を撮り始めて体調が悪化し、3年生への進級が危うく、撮影もうまくいかず…悪いことが重なって心身ともに極限まで追い込まれたことも。小田に友人として悩みを相談する余裕もなくなりました。でも、1枚の企画書から始まり、多くの人を巻き込んでいる責任はとてつもなく大きい。途中でやめるという選択肢はありませんでした」(西山さん)

これはたんなる高校生の美談ではない。彼女たちの魂が込められた「今日も明日も負け犬。」が広まり、さまざまな人の心にそっと寄り添っていくことを願わずにはいられない。

佐々木 恵美 フリーライター・エディター

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ささき えみ / Emi Sasaki

福岡市出身。九州大学教育学部を卒業後、ロンドン・東京・福岡にて、女性誌や新聞、Web、国連や行政機関の報告書などの制作に携わる。特にインタビューが好きで、著名人や経営者をはじめ、様々な人たちを取材。

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