価格下落にコンビニも注目、「コメ」が家計を救う 前年比5.8%ダウン、「5キロ1100円台」も登場

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「作れば作るほど赤字になってしまう」という生産者の声も聞かれる。コメ作りの魅力が増さなければ新規就農も増えず、耕作放棄地が増えるばかりとなる。その結果、地方の衰退が加速してしまう。それを食い止めるには消費拡大、適正価格化が最優先課題だ。

国全体の食料事情を考えるうえでも、コメ作りが戦略的な基幹産業であることに変わりない。37%の食料自給率を考えたとき、安定的に供給を確保できるコメは国民にとって心強い。十分な備蓄があるので、災害時でも供給面に大きな不安はない。

食品価格高騰の中で大助かり

消費者にとってもコメの消費量を増やすことはメリットがある。パンや麺類など値上げが続く品目の使用頻度を減らし、価格が安定しているコメに主食をスイッチしていくことにより、急速に上昇しているエンゲル係数を抑えることが可能になる。物価急騰の折、コメのありがたさを痛感している消費者は多いはずだ。また、非常時においても、保存が利くパック詰めご飯は貴重な存在だ。

最後に、見落としてはならない事実がある。日本のうまいコメは今後、世界の市場を相手に勝負できる数少ない農産物の代表格であるということだ。コメの輸出量は平成26年(2014年)の4515トンが令和3年(2021年)には2万2833トンと5倍に増えている。香港、シンガポール、台湾、アメリカが上位輸出国となっている。

和食ブームが続く中、香港やシンガポールでは中食、外食を中心に需要開拓が進んでいるという。この先の人口減少で国内市場が縮小する状況で、輸出増強は欠かせないテーマだ。

日本のコメにさらなるブランド価値を付け、上位国だけでなく他の国の市場開拓も積極的に行っていく必要がある。とりわけまだ輸出量が少ない巨大マーケットの中国向けをどう増やすかがカギになる。植物検疫条件をクリアするなどの課題はあるだろうが、そこは国が主導して環境整備を図っていけばいいのではないか。

コメは日本人にとってなくてはならない存在であり、無限の可能性を秘めている作物である。その価値をあらためて認識し直し、生産基盤を維持、強化していくことが政治に求められている。

今回の参院選。都会の駅前演説会などでは、コメづくりの重要性や米価対策に言及する候補者はほとんどいなかった。コメ問題は地方の問題としてとらえられがちだが、よく考えれば国全体、国民生活に深く関わる問題である。一粒一粒のコメのパワーと可能性を侮ってはならない。 

山田 稔 ジャーナリスト

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やまだ みのる / Minoru Yamada

1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。雑誌『ベストカー』に「数字の向こう側」を連載中。『酒と温泉を楽しむ!「B級」山歩き』『分煙社会のススメ。』(日本図書館協会選定図書)『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』などの著作がある。編集工房レーヴのブログも執筆。最新刊は『60歳からの山と温泉』(世界書院)。

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