昨年の5月、私は、単科受講期間も含め2年半通ったビジネススクールの卒業式を迎えた。3月で授業はすべて終わり、卒業も確定していたのだが、学校の運営の都合上、式は初夏に行われた。桜は散ってしまっていたが、木々の緑が美しい、よく晴れた休日だった。
2年前、入学式のときは、周りにいる人全員が、違う星から来たイケイケエリートに見えた。卒業式のその日は、ずっとあこがれていたアカデミックガウンを身にまとい、ちっとも頭の上に固定できない角帽を無理矢理ピンで留め、入学時とはまったく違う胸の高まりを感じていた。……いや、これは、胸の高鳴り、では……ない……、胸の締め付け……いや……これは、吐き気……?
卒業写真撮影の際、学長に話しかけられた。
「2年間で何を得た?」
「同級生と結婚しました!」
「すばらしい! 学内結婚は多いのか?」
「はい、何組かいますよ」
「すばらしい! 旦那以外には何を得た?」
「あ、転職しました」
「旦那と仕事を得たのか! すばらしい! いちばんいい!」
いや、実はそれだけではないんですけど……という最後の言葉をぐっと飲み込みながら平静を装っていたあの日の私に、アカデミー女優賞をあげたい。私の腹の中には、小さな命が宿っていて、とめどなく襲う吐き気の力を借りて、しつこいくらいその存在を主張していたからである。
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