田中聖さん再逮捕に見る薬物に刑罰が間違いな訳 再使用は治療失敗ではなく、治療を深める好機

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田中さんの場合、薬物を断ち切るために、自助グループに通っていたそうだ。同じグループのメンバーである高知東生さんが、田中さん再逮捕を受けて、以下のようにツイートしていた。

「田中聖君の逮捕、一般の人には理解できない再犯かもしれない。でも聖君は回復努力に一生懸命だった。……それを伝えることが今の俺にできる唯一のことかなと思いツイートします。」

これを見ると、田中さんが真剣に問題と向き合い、薬物を断ち切ろうとしていたことがわかる。しかし、それでも再使用は起こってしまった。このことをどう考えればいいのだろうか。

治療は長時間かかることを前提に

批判を承知であえて言うが、実は薬物依存の治療の現場において、薬物再使用は現実的に「よくあること」である。これは何も開き直っているわけではない。なぜなら、何度も言うように、報酬系の異常は、そう簡単に治るものではなく、長い時間をかけてその過敏性が落ち着くのを待つしかないからだ。中には一度も失敗をせずに回復の歩みを進むことができる人もいる。もちろん、それが理想であることは間違いないが、現実はなかなかそうはいかない。

別の説明をすれば、薬物の快感にまつわる「記憶」を消すためには、長い時間がかかるということだ。誰でも楽しい記憶、快感の記憶は持っているだろうが、それを忘れてしまうには長い時間がかかる。

したがって、その間、できるだけスイッチを入れないように、薬物にまつわる記憶を呼び覚ますような人や場所や物を避けられるように、ライフスタイルを根本から見直し、それらを上手に回避できるようなスキルを獲得たり、ネガティブな感情を抱いたときにも、薬に頼るのではなく、別の対処法(コーピング)を学習したりする。これを繰り返しながら、脳の回復を図るのである。

次ページ再発を繰り返しながら、良くなっていく
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