田中聖さん再逮捕に見る薬物に刑罰が間違いな訳 再使用は治療失敗ではなく、治療を深める好機

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そして、ここでわれわれが理解すべきことは、刑罰では依存症は治らないということだ。それは、この再犯率の高さが如実に物語っている。

刑務所で刑罰を受け、心から反省したとしても、まだ報酬系の過敏性は残っている。したがって、出所して薬物を思い出すような刺激に遭遇したり、あるいはネガティブな感情を抱いたりすると、たちまち報酬系に電気が走り、薬物欲求にのみ込まれてしまうのである。

刑罰というのは、理性に訴えかけ、反省を促し、強い意志で薬物を克服するように求める。しかし、依存症に陥っているのは、脳の本能的な部分であるため、理性では所詮太刀打ちできないのである。これは例えて言えば、下痢をしているのに、頭痛薬を飲んでいるのと同じようなものだ。

重要なのは刑罰より治療

したがって、刑罰よりも重要なのは治療ということになる。とはいえ、わが国では薬物依存症の治療システムが整っているとは言い難い。なぜなら理由の1つには、諸外国に比べて薬物問題が比較的小さな問題であることが挙げられる。

わが国で覚醒剤で検挙される人は、年間1万人を超える程度である。一方、覚醒剤乱用が世界で最も深刻であるフィリピンでは、人口が1億人弱であるのに対し、覚醒剤使用者の数は300万に上るとも言われている。

そしてもう1つは、日本社会では「薬物問題は厳しい刑罰で対処する」という固定観念があり、治療システムの構築や専門家の育成がおろそかになっていたという面がある。しかし、今後は「刑罰よりも治療を」というパラダイムシフトが必要である。そして、治療には明確な効果があることを数多くのエビデンスが示している。

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