日本人に伝えたい「チバニアン命名」の凄さの本質 「地磁気逆転」の明瞭な痕跡が命名の決め手に

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日本のGSSP候補地であった千葉県市原市の養老川沿いの地層(千葉セクションと呼ばれています)には、松山―ブルン境界が古地磁気として明瞭に残っていました。一方、イタリアの地層は磁鉄鉱がとけてしまったことで古地磁気が完全に失われていたのです。こうして新生代のGSSPとして、地中海沿岸地域ではない、異例のチバニアンが誕生したのです。

地磁気逆転は、プレ―トテクトニクスの証明に貢献し、新しい地層の年代測定法としても重宝されています。さらに、将来的な不安に対する備えとしても重要だと考えられています。というのも、地磁気が逆転する際に地磁気が極端に弱くなるからです。地磁気は宇宙からの放射線や太陽からの太陽風(電気を帯びた粒子の流れ)から地球を守るバリアの役目をしています。地磁気の逆転が生じる際、このバリアが薄くなってしまうのです。

太陽フレアによって起こった大停電

例えば1859年に太陽の表面で大規模な爆発(フレアといいます)が起こったとき、大量の太陽風が地球を襲いました。このとき、すでに電化が進んでいたアメリカやヨ―ロッパの送電線や変電所に過電流が流れ、電信ネットワ―クがダウンしました。

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今日でも1989年のフレアによりカナダのケベック州で大停電が引き起こされた例や、地磁気の弱いエリアで人工衛星が故障する事例が数多くあります。地磁気のバリアが薄くなってしまえば、こうした事態が頻発する可能性があるのです。

地磁気は1830年代の観測開始以来、一貫して弱くなり続けています。このまま低下し続ければ、近い将来に地磁気の逆転が実際に起こるかもしれません。その際には地磁気のバリアが弱体化し、世界の送電網や携帯などの通信網、そしてGPSや気象衛星、衛星通信などがダウンして大混乱に陥るかもしれません。

幸い、過去の地磁気の逆転と生物の大量絶滅には相関関係が見られませんが、小さな絶滅や生命の進化との関係は今も調べられています。こうしたことを未然に防ぐために、松山らが開いた地磁気逆転の研究は、これからもより重要度を増しているのです。

小林 則彦 筑波大学附属駒場中・高等学校教諭、気象予報士

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こばやし のりひこ / Norihiko Kobayashi

日本地球惑星科学連合 教育検討委員会 教育課程小委員会委員。日本学生科学賞中央審査委員。東京都生まれ。西武学園文理中学高等学校に27年間勤務し、2022年度より現職。著書に検定教科書の『高等学校 地学基礎』(共著、数研出版)、副教材の『フォトサイエンス地学図録』(共著、数研出版)、検定外教科書の『系統的に学ぶ 中学地学』(共著、文理)のほか、一般書として『面白くて眠れなくなる地学』(共著、PHP)、『怖くて眠れなくなる地学』(共著、PHP)、『身近にあふれる「自然災害」が3時間でわかる本』(共著、明日香出版)、『科学はこう「たとえる」とおもしろい』(共著、青春出版社)など。

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