そこで基本に立ち返って考えてみると、どんな商品やサービスでも、それに対価を払って入手したいという顧客がいるかぎり、それは必ず世の中の役に立っているということです。
多くの取引は、買い手個人の目先の利益に応じたものかもしれませんが、そうではなくて、潜在的なニーズを掘り起こすことによって、価格競争とは別の戦線で戦う、というビジネス戦略もあり、ブルーオーシャンなどの名前で呼ばれています。
ルール形成戦略は、このブルーオーシャン戦略と社会課題解決というコンセプトをリンクさせたもの、と言うこともできます。実際、日本には、社会課題解決力につながる商品・サービス・技術・ノウハウをお持ちの企業が大勢おられるわけで、これらの要素と社会課題解決をリンクさせて、日本企業の“非価格競争力”を発揮していただこう、そのために経済産業省も社会課題の解決にかかわるルール形成をしていこう、と考えているわけです。
今、中国やインド、中東などの新興国では、大気汚染など経済成長のもたらす負の側面が顕在化してきています。気候変動、水危機、異常気象といった環境関連や、食糧危機、感染症、サイバーアタックといった社会・技術関連のグローバルリスクも叫ばれています。また、高齢化社会を迎えようとしているのは日本だけでなく、アジアの多くの国々も同様です。
あるいは欧米の企業社会では、強制労働や児童労働のような人権を無視した労働が行われることのないよう、CSR(企業の社会的責任)に配慮しながらサプライチェーンを管理しなければいけないという意識も高まっており、国連などの場でも活発な議論が行われています。ルール形成戦略は、このようなさまざまな社会課題を広く射程に入れています。
ルール形成戦略がブランディングになる
今まで日本の企業には、このようなグローバルな社会課題が自社のビジネスチャンスとなるという意識はそれほど強くはなかったのではないかと思います。しかしこれからは、先ほど申し上げた非価格競争力という考え方、そして、社会課題の解決に企業として関与していくことが自社の非価格競争力となるという考え方が、市民権を得てくるのではないでしょうか。
実は日本企業の中には、欧米の企業より昔から、サプライチェーンにおける環境配慮・人権配慮などは当たり前のようにやってきている会社も多いのではないかと思います。
けれども、それを自分たちのブランドにできるとは考えてこなかった。自分たちのサービスや自分たちの製造している商品、さらには自分たちのサプライチェーンのあり方そのものが社会厚生の向上に役立っていることを「ブランド」にするという発想が、それほど広く共有されてはいなかったのではないか。しかしこれからは、そこを戦略的にとらえてブランド化することができるのではないでしょうか。
桑島:そうすると、今、経済産業省が目指しているのは、グローバルなルール形成によって、今はまだ十分に顕在化していない日本企業の非価格競争力が、表に出るのを助けていこうということですか。
田村:そういうことです。おっしゃるとおりです。
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