出井伸之が84年で形作った「華麗なる人脈」の凄み ソニー初の生え抜きサラリーマン社長が歩んだ人生

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新しい知識・経験を得るだけでなく、アフター5を有効活用した。物流センターでは、夕方には仕事が終わるため、その後は、(東京)六本木へ足しげく通った。そこで、「華麗なる人脈」を拡げる。文化に造詣が深い異業種の経営者、芸能プロダクションや劇団のトップ、文化人や芸能人など、電機業界以外の人たちとの交流を深めた。この経験が、社長就任後にハードとソフトの融合、エンターテインメント事業、ソニー銀行の設立などにつながる。

こうした「華麗なる人脈」が、派手なパフォーマンスと見られ、逆効果になった面もある。ソニーと聞けば、1969年に出した「出る杭を求む」という大きな新聞広告が話題になるほど、ユニークな人材を大切にするイメージが強かった。しかし、そのような突出した秀才たちが集まれば、当然、「人の不幸は蜜の味」とする輩が、人の足を引っ張る。あるソニーOBによると、「つねに周囲からウォッチされている厳しい競争環境」だそうだ。

「謙虚に目立つ」のではなく堂々と目立っていた

そのような中にあって、出井氏は敢えて「出る杭」に徹しようとしたのだろう。サラリーマンが上に認めてもらうには、自分を磨き、その姿をわかる形で明示しなくてはならない。いわゆるセルフ・プロデュース力が求められる。この点について、あるサラリーマン社長に「出世の極意は」と尋ねると、「謙虚に目立つこと」という答えが返ってきた。

出井氏は堂々と目立っていた。記者会見で記者から厳しい質問が飛んできても、論破、反論する強気なところがあった。堂々と言いたいことを言い、したいように行動する姿は格好いいが、いざ、実行してみると、目立つ行為にはリスクが付きまとう。この国では、「出る杭は打たれる」という諺は今も無視できない。いや、脳科学の知見によると、人間は誰しも万国共通で、「人の不幸は蜜の味」という要素を持っている。

出井氏は、文系出身であったこともあり、社長就任後も「技術軽視」と評され、技術者のモチベーションが下がったと聞く。そう書いている記事も散見される。

その悪評に拍車をかけたのが、2003年4月に起きた「ソニーショック」だった。次年度(2004年3月期)は黒字を確保できるものの、前年度比57%減益になる見通しである、と発表したところ、ソニーの株価が暴落し、株式市場を混乱させた。その際、減益の要因として話題になったのが、平面ブラウン管テレビが好調に売れていたため、薄型テレビへの移行が遅れた点だった。人の感性に訴える高級ブランドとして投入したQUALIA(クオリア)ブランドの失敗も、出井氏の評価を下げた。この結果、「技術がわからない出井氏」の烙印が押されてしまった。

「ソニーショック」の痛手は大きく、縮小経営へと続く。2006年1月、1999年に発売して以来、ソニーらしい看板商品として話題を呼んだ犬型ロボットAIBO(アイボ)から撤退した。到来するIoT時代で重要性が増すロボットをなぜやめるのか、と惜しむ声が社内外で聞かれたが、「ソニーショック」を乗り切るため「守勢の判断」を出井氏は下した。

後に、平井・前CEOが、この社内の不満、そして、市場ニーズを察知し、2017年度中間決算で営業利益、純利益ともに過去最高を達成したソニーは、決算発表翌日の11月1日、本社で新製品発表会を開き、新型aibo(ERS-1000)を戌年の2018年1月11日(ワン・ワン・ワン)に発売すると発表した。発売から30分で初回販売分3000台を完売した。意図せざる結果かもしれないが、平井氏は出井経営を否定するかのような印象を与えることで、社内のモチベーションを向上させていった。

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