出井伸之が84年で形作った「華麗なる人脈」の凄み ソニー初の生え抜きサラリーマン社長が歩んだ人生

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盛田氏の秘書として財界活動をサポートしていた大木充氏(後に常務)は、「私が入社した頃、ソニーはほかの大手電機各社を仰ぎ見る音響専業メーカーでした。まだ、家族的な雰囲気が残っていて、新入社員が(東京)青葉台にあった盛田家に招待され、良子夫人がもてなしてくださいました」と振り返る。

出井氏も同様の経験をしている。テニス、ゴルフが好きだった盛田氏は、出井氏の自宅に電話をかけ、たびたび呼び出した。プレー中は、仕事の話を一切しなかったという。とはいえ、盛田氏と出井氏の接触回数が増えるにしたがい、良子さんと出井氏との関係もより密接になっていく。ちなみに、盛田氏の長男・盛田英夫氏の夫人は、出井氏の従兄弟の娘である。

はっきり言って、出井氏は公私ともども、盛田夫妻に信頼され、好かれていたのだろう。その証拠に、盛田氏が亡くなった後も半年ごとに、1人になってしまった良子さんを励ますため出井氏は会食に誘っていた。ファミリービジネスで創業者夫人を大切にするのは、当たり前というのが「世間の事実」だが、これが、「策略」としてメディアに描かれることもある。また、ミセスに好かれた人は、そうでない社員、ライバルのやっかみの対象にもなりかねない。ましてや、株主重視主義の昨今においては、このような「古典的慣行」はコンプライアンス上、問題視されがちだ。

ミセスが「ソニーの社長になるような人は、(盛田氏のように)さっそうとした人でないとだめよね」と言ったという都市伝説ならぬ社内伝説がある。良子さんが公言したか否かは定かではないが、盛田氏がテレビ出演をする際には、良子さんはスタイリストのごとくファッションの細部まで関係者に指示を出していた。こういった証言を得ていることもあり、さもありなんと言ったところか。

ともあれ、良子さんのアドバイスは必ず盛田氏に届いていたはずだ。このような効果が、ファミリービジネスにおいて社長夫人が「影の取締役」と言われる所以である。合理性だけでは説明できない影響力についての評価はさておき、ソニーの歴代トップを見て見れば、華がある経営者が多いことは明らかだ。盛田氏のように、品性と知性を兼ね備え、国際的、社交的な人物がトップに就いている。

左遷につながった修羅場

ソニーを再生させた平井一夫・前CEOが、ネイティブ同様の英語でプレゼンする姿には華があった。出井氏のもとで社長(CEO)室長を務めていた吉田憲一郎・現CEO は、平井氏に比べれば地味な印象を受けるが、頭の切れは鋭い。出井氏は「吉田君は、なかなか厳しいよ」と評していた。仕事に対する厳しさが、2021年度連結決算で営業利益1兆円越えを実現し、「華がある企業価値」を実現した。

ビジネスパーソンに苦闘はつきもの。その中でも極めて高いハードルを越えなくてはならないことがある。出井氏の場合、「華麗なる人脈」やパフォーマンスが注目されがちだったが、ご多分に漏れず、修羅場を経験したことで一回りも二回りも大きくなった。

パリに駐在し始めた頃(1968年)、ある修羅場が待ち構えていた。日本製カラーテレビの輸入制限が実施され、マルセイユの港に着いた製品を受け取れなくなってしまったのだ。認可をとるため必死で交渉した。疲労がたたり入院する羽目に。そんな修羅場も乗り越え、スエズ銀行(現クレディ・アグリコル)との折半出資により、現地法人設立のメドがついた。

ところが、これまで使っていた販売代理店と組むべきだとする本社側と対立し、出井氏は帰国を命じられた。サラリーマンが上層部に逆らえば、修羅場が用意されているのは、お決まりのパターン。帰国後、配属されたのは横浜の物流センターの倉庫。俗に言う「左遷」である。出井氏も内心ショックだったと吐露しているが、出井氏は、その配属を前向きに捉え、物流とコンピューターについて学び、その重要性に気づいた。物流センターで得た知見は、芸の肥やしならぬ、社長の肥やしとなる。

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