日本と中国「正常化」という永続的プロセスの本質 日本に求められるパワーと国際秩序における役割

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国際秩序においては、日本はアジア太平洋の国際秩序の再構築に向けて積極的な安定力としての役割を果たす必要がある。“中露ブロック”に駆動されるユーラシア地政学に「フロントライン国家」としていかに立ち向かうか。国際秩序とルール形成のための環境醸成における日本の役割はさらに大きくなるだろう。

秩序とルールの形成では中国とも協力できるものは協力する姿勢が大切である。安倍政権時代、日本は「一帯一路」に対して「開放性、透明性、経済性、債務持続可能性」の4つの条件を付けて協力する意向を示し、中国はそれを自らの原則に織り込み、日中の第三国市場協力への道を開いた。ここでの外交は、価値観(人権)より原則(国際法)が、正義(最終解決)より賢明さ(共通項の活用と異なる見解・立場の認識)が求められる。

過去半世紀、日中両政府は、1972年の「日中共同声明」、1978年「日中平和友好条約」、1998年の「日中共同宣言」、2008年の「日中共同声明」と4つの政治文書を発表、日中両国の関係を規定してきた。

「競争的共存」の知恵

しかし、いま、日中関係において最も切実な「競争的共存」の知恵は、尖閣諸島をめぐって日中関係が行き詰まった状態を底打ちさせた2014年11月の「4項目合意」に示されているのではないか。

「双方は、尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた」

正常化を目指し50年、日中関係はこれまで以上に厳しい地政学的環境の下、内政的な友好支持基盤を欠いたまま、再び正常化の出発点に引き戻されたかに見える。

おそらく正常化とは、「競争的共存」戦略の本質である「問題を解決するよりむしろ条件を管理する」という思想──自制とある種の諦観──に裏打ちされた永続的プロセスであると心得るべきなのだろう。

(船橋洋一/アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長)

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

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