円安が日本人に望ましくないのは結局、損だから 企業には恩恵あっても消費者にとっては不利益

✎ 1〜 ✎ 70 ✎ 71 ✎ 72 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

以上をまとめれば、つぎのとおりだ。

完全転嫁の仮定の下では、円安によって企業利益が増える。だから、企業の保有者(株主)にとっては望ましい。

しかし、消費者にとっては望ましくない。なぜなら、賃金が増えず物価が上がるからだ。

株主の数に比べれば、消費者の数はずっと多い。

だから、数の上では円安によって損失を被る人のほうが、利益を受ける人よりはるかに多い。

それにもかかわらず、日本では、これまで円安が政治問題化されることがなかった。

それは、この国の政治体制が正常に機能していないことの証拠だ。

物価高騰に対する消費者の不満は高まっている

もっとも、消費者が被る不利益は、1人当たりではさして大きなものではなかったために、政治問題化しなかったとも言える。実質賃金が低下したといっても、さして大きな変化ではないから、はっきりとは意識できない。

しかし、今回は違う。原材料価格の高騰と円安が同時に生じているため、価格上昇率が高く、物価高騰に対する消費者の不満は高まっている。

それだけではない。企業が完全には転嫁できない可能性がある。したがって、上で述べた完全転嫁の場合とは異なり、企業の付加価値も減る可能性がある。だから、株主の立場から見ても、円安が望ましいとはいえなくなっている。

このため、為替レートの行方に強い関心が集まっている。この機会に、円安の評価に関する議論を十分に深める必要性が強まっている。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事