以上をまとめれば、つぎのとおりだ。
完全転嫁の仮定の下では、円安によって企業利益が増える。だから、企業の保有者(株主)にとっては望ましい。
しかし、消費者にとっては望ましくない。なぜなら、賃金が増えず物価が上がるからだ。
株主の数に比べれば、消費者の数はずっと多い。
だから、数の上では円安によって損失を被る人のほうが、利益を受ける人よりはるかに多い。
それにもかかわらず、日本では、これまで円安が政治問題化されることがなかった。
それは、この国の政治体制が正常に機能していないことの証拠だ。
物価高騰に対する消費者の不満は高まっている
もっとも、消費者が被る不利益は、1人当たりではさして大きなものではなかったために、政治問題化しなかったとも言える。実質賃金が低下したといっても、さして大きな変化ではないから、はっきりとは意識できない。
しかし、今回は違う。原材料価格の高騰と円安が同時に生じているため、価格上昇率が高く、物価高騰に対する消費者の不満は高まっている。
それだけではない。企業が完全には転嫁できない可能性がある。したがって、上で述べた完全転嫁の場合とは異なり、企業の付加価値も減る可能性がある。だから、株主の立場から見ても、円安が望ましいとはいえなくなっている。
このため、為替レートの行方に強い関心が集まっている。この機会に、円安の評価に関する議論を十分に深める必要性が強まっている。
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