円安になると、円建ての輸出額と輸入額が増える。これらを、DXとDMで表そう。
純輸出の増加はDXーDMだ。
他方で、国内最終財への名目支出は、前述の仮定(各段階の購入者が、購入量を減らさず、値上げをすべて受け入れる)により、DMだけ増加する。
したがって、結局のところ、名目GDPは、DM+(DXーDM)=DXだけ増加することになる。これは、生産面での変化と同じだ。
これまで、輸入物価上昇は、基本的にはこのパターンで処理されてきた。
円安による輸入額増加の大部分は、国内最終財の中で大半を占める民間最終消費支出が負担してきたと思われる。
なお、以上の議論は、原油価格高騰などによって、ドル建て輸入額が変動する場合にも、当てはまる(ただし、後で述べるように、原油価格が低下した際には、企業は売上価格を低下させていない)。
実質賃金低下は必然的に起きたこと
実際に起きたことを見ると、次のとおりだ。
2013年から2015年頃にかけては、円安が進み、企業はそれによる原価増を最終財の価格に転嫁した。したがって、実態的な生産活動は変わらなかったのだが、企業利益が増大した。これが、すでに述べたことである。
他方で、消費者は、それまでと同じものを高い価格で買うことになったので、生活水準が低下したことになる。
これは、実質賃金が低下したことに現われている。
毎月勤労統計調査によれば、2012年に105.9だった実質賃金指数が、2015には101.3となり、3年間で約4.5%低下した。
重要なのは、実質賃金の低下は、たまたま起こったことではなく、企業が輸入価格の上昇を転嫁した結果、必然的に生じたということだ。
なお、2015年から2017年頃には、原油価格が大幅に下落した。しかし、企業はこの大部分を消費者物価引き下げに転嫁しなかった。このため、企業の利益は大幅に増加した。
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