まず注意すべきは、ドル建ての輸出額は減少していることだ。輸出数量で見ても、同様の傾向が見られる(図表1参照)。
つまり、輸出品を作るための生産活動が活発化したのではなく、単に、帳簿上の輸出額が、為替レートの変動にともなって増大しただけなのである。
これは、この間の鉱工業生産指数がほとんど一定で、上昇しないことを見ても確かめられる。
このため、雇用の増加や賃金の上昇といった変化は生じなかった。
そうは言っても、GDPが増えたのは、事実だ。
では、やはり円安は望ましいことなのか?
そうは言えない。なぜなら、以上の議論は、円安になれば円建ての輸入額も増大することを無視しているからだ。
企業が輸入価格上昇を転嫁すれば、付加価値は減らない
輸入額増加の影響を検討するため、まず、円建ての輸出額は不変で、輸入額だけが何らかの理由で上昇する場合を考えよう。
輸入額が上昇すると、企業の原価が上昇する。しかし企業は、これを売り上げに上乗せして、付加価値(=売上高ー原価)の減少を抑えようとする。このような転嫁の過程が、素原材料から中間財へ、そして最終財へと続いていく。
仮に、この過程のすべての購入者が、購入量を減らさずに値上げをすべて受け入れれば、各段階での企業の付加価値は変わらず、その合計額も変わらない。
したがって、円安になった場合には、円建て輸出増による付加価値増効果だけが残ることになる。
GDPは付加価値の合計なので、以上の議論により、円安で増えることがわかる。
以上は生産面からの検討だが、これを支出面から確かめておこう。
GDPを支出面から見ると、国内最終財(消費、投資、政府支出など)への支出と、純輸出(財サービスの貿易収支)の合計だ。
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