マツダを大復活させた「CX-5」開発物語 2度の経営危機から過去最高益へ
作り手の物語に評価
もっとも、性能やデザインにこだわるほど、費用は高くなり、特別な技術も必要になる。それを採算のとれるコストで、市販できるようにしたのが「モノ造り革新」だ。
車種ごとの基本的な構造の共通化。コンピューターを駆使した試作コストの削減。無駄を減らすプレス加工方法。13回重ね塗りしたときと同等の深い陰影と鮮やかさを、3回の塗りで実現する塗装技術。さまざまな「革新」の積み重ねで、「1ドル=77円の円高でも利益が出る」ところまで改善した。
担当の菖蒲田は言う。
「いまのマツダの車には、こういう車を実現させたいと奮闘した作り手一人一人の思いがこもっている。性能が良いだけで車が売れる時代ではない。背景にある、関わった人たちの物語が、性能を超えて評価をいただいているのではないか」
全社一丸となってつくりあげたスカイアクティブ技術と魂動デザインを全面的に採用し、初めて世に問うた車が、12年2月に発売したスポーツ用多目的車(SUV)「CX - 5」だ。当時の社長、山内孝は新車発表のあいさつで胸を張った。
「新生マツダの象徴、私たちの将来を担う重要な車。まさに社運をかけたとも言うべき車です」
白と黒のコントラスト
CX―5の開発でチーフデザイナーを務めた中山雅(まさし)さん(49)は振り返る。
「あまりにしんどいので、途中で一度辞表を出した。ネジ以外ほとんどの部品を新たに設計したんですから」
後に続く新型車に部品や構造を転用できるよう、CX―5には初期段階からあらゆる部分に詳細な検討が加えられた。
「ランプのデザイン一つを決めるだけでも、あちこちの部門の合意が必要で、ものすごく時間がかかった」(中山)