一方、民間では申請する保育所が多い。だが、介護・保育ユニオン共同代表の三浦かおりは「額が少ないうえに、補助金が経営側を経由して支給されるため、保育士個人に9000円届くかどうかわからない」と指摘する。
まず、補助金が実際の保育士数ではなく国の配置基準に合わせて算定されるため、保育士を手厚く配置する良心的な保育所ほど支給額が低くなる。しかも、配分方法が経営側任せで、経営に直言する保育士は額を下げられるおそれもある、というのだ。
共通するのは、①女性を「戸主」に依存させ、家事・育児のための「無償使い放題要員」とする戦前の「家制度」のしっぽと、②公共・民間問わない人件費削減経営の中での女性のケア労働の軽視、という「後門の家制度、前門の新自由主義」の政策だ。
2022年6月7日に発表された「経済財政運営と改革の基本方針 2022」や「女性版骨太の方針 2022」政策は、このような方向性をむしろ強めかねない部分もはらんでいる。前進と思われる文言が盛り込まれる一方、「コロナ対策」が女性の貧困化に及ぼした影響は検証されず、「女性の自己責任による経済的自立」の姿勢が随所に見られるからだ。
女性が是正を求めるための支援措置は乏しい
一例として、「大企業へ男女間の賃金格差の開示の義務付け」がある。これ自体は歓迎すべき措置だが、開示後も格差が縮まらない場合の罰則など、女性が是正を求めるための支援措置は明記されない。
職業訓練によってキャリアアップし「雇用の流動化」で成長産業へ移動するという賃上げの道筋も示されているが、「日本型同一労働同一賃金」では簡単ではない。原則として、転勤や異動などの人材活用の仕組みが異なって入れば、職務内容が同じでも賃金差が容認されるため、家族との関係や企業の雇用管理によって転勤しにくい女性には不利だからだ。
「事業者がフリーランスと取引する際の契約の明確化を図る法整備や相談体制の充実」は盛り込まれたが、フリーランスへのセクハラ防止義務など働き手としての権利強化がなければ、契約を盾に泣き寝入りを強いられる事態も起きうる。
「女性の視点も踏まえた社会保障制度や税制等の検討」も前進ではあるが、世帯主に支給される特別定額給付金など災害支援金のあり方には触れていない。「男性の育児休業取得促進や長時間労働の是正等働き方改革の着実な実施」をうたう一方で、長時間労働の温床とも言われた裁量労働は「更なる検討を進める」とある。
さらに、「困難を抱える女性に対する支援」の中心的担い手となる「会計年度任用職員」や、「女性活躍」のために「活用が推進に取り組む」とされる「ベビーシッター・家政士等」などの待遇改善については触れられず、これらの利用拡大が、今後、低賃金で困難を抱える女性の温床にもなりかねない。
コロナ禍は、政策が女性の貧困に大きな影を落としてきたことを改めて明らかにした。その徹底検証こそが、今後の政策づくりの基礎になる。
(文中敬称略)
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