コロナ対策は「逆に育児女性を苦しめた」過酷現実 「新しい資本主義」は女性の貧困を救うのか

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テレワークで通勤時間がなくなった分は保育園に預けないこと、保育園の迎えの前に買い物をしないこと、平日に親が休みの場合は保育園に預けないこと、とあった。

長井には、勤務時間以外は家事という無償の労働がある。遊んでいるわけではない。仕事も家事も育児も地続きで、食事のための買い物や洗濯ができなければ育児はできない。追い詰められた気持ちになった。育児以外のことに保育園を利用するなというなら、家事負担を軽くする家事代行、ベビーシッターを安く使えるようにしてほしい、と思った。

金井利之・東京大学大学院教授は、コロナ対策が生んだ被害を「コロナ対策禍」と呼んでいる。長井の体験は、子育てを無視した政府の突然の休校措置が飲食業界以外でも非正規の雇い止めを誘発し、これに子育てと家事を無視した市の保育行政という二重の「コロナ対策禍」が起きていたことを浮かび上がらせる。

コロナを利用した「隠れマタハラ」

コロナ禍では非正規女性だけでなく、「マタハラ解雇」による正社員女性の雇用喪失も一段と激化している。

労働組合の女性ユニオン東京には、とくに2020年後半にこうした相談が相次ぎ、いまも続いている。範囲はコロナに直接関係のない事務職にもおよび、内容は次の4つのケースに大別できるという。

ケース1:妊娠を告げたら「辞めてくれないか」と持ちかける
ケース2:育休から復帰する際の面談で「契約社員」になることを勧められる(契約期間が切れた時点で雇い止めになる例が多い)
ケース3:育休復帰する際の面談で、退職を強要する
ケース4:育休の際に支給される育休給付金の手続きを会社がしてくれない

いずれも「コロナによる業績悪化」が理由とされているが、仕事が減ったという証拠を挙げないまま、パワハラ的な行為で自主退職へ誘う例がほとんどだ。

例えば、「『あなたの席はもうない』と言われ、承諾するまで解放してもらえなかった」「コロナ感染拡大の中で『妊婦の健康を保障できない』と退職勧奨された」「妊娠を告げると『夫の扶養家族になれないか』と言われた」などだ。中には「これからは男性を雇う。次の募集をしたいので早く辞めて」と言われるなど、子育てのない男性正社員への乗り換えの動きもあった。

女性ユニオン東京執行委員の谷恵子は、「マタハラの防止措置は義務づけられても、新自由主義的な人件費削減競争には歯止めをかけない。それが、コロナを利用した隠れマタハラを招いている」と見る。

ただコロナ禍では、2019年から2021年の間に女性の正規雇用者(15歳~64歳)が、男性の7万人減少に対し、58万人もの増加となる事態も起きている。

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