「都合のいい労働者?」フリーランスの過酷な実態 搾取からの保護と自由な働き方の保障という難題

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昨年4~9月に「110番」に寄せられた相談のうち、最も多かったのが報酬の全額不払い。次いで契約条件の不明確・契約書の未作成だが、これも実態は「契約上の報酬設定があいまいなことなど、金銭に起因する相談が多い」(弁護士会)という。3番目が、発注者からの一方的な報酬減額だった。

業務委託の場合、発注者は任意で契約を解除でき、受注者に損害が生じたとしても賠償金を支払うなど「お金で解決」することが可能だ。

一方、報酬引き下げや業務の追加など、契約内容の変更には発注者と受注者、双方の同意が必要で、発注者の一方的な変更は、本来は法的に有効ではない。しかし立場が弱いフリーランスの場合、引き続き仕事を得るため、泣く泣く変更に応じざるをえないことも多い。報酬が支払われなかった時も、時間的・経済的な余裕がない、立証に必要な証拠をそろえられないといった理由から、法的手段に訴えず「泣き寝入り」しがちだ。

また堀田弁護士によると、意外と多いのは受注者からの「契約を解除したい」という相談だ。請負契約の場合、発注者の債務不履行や当事者間での特別な取り決めがない限り、受注者が一方的に契約を解除する権利はない。このため働き手が、発注者にハラスメントまがいの対応をされたり、過重な業務を課せられたりして「もうやめたい」と申し出ても、「中途解除は契約違反なので損害賠償を請求する」などと言われ、やめられないケースが多いのだという。

「受注者側も契約内容はきちんと果たす、自分にできる業務かどうか確認してから仕事を受ける、といった心構えは必要。しかしドライバーが極端に長い運転を強いられ、健康を損ねているのに仕事を続けざるをえないといった場合は、大事故にもつながりかねません」

新卒も…若者の無知に付け込む

フリーランスの労働問題に詳しい川上資人弁護士は、新卒学生が「エステの会社に就職しました」と言うので話を聞くと、実はエステティシャンとして業務委託契約を結んでいた……など「就職とは名ばかりで、契約上はフリーランスだった、という事例が増えています」と話す。

「若い世代は、正社員と個人事業主の違いなどの知識があまりないうえに『フリーランス』という語感の良さにも目をくらまされ、危機感を持たず契約してしまう。その結果、無知につけこんだ会社側に都合よく使われてしまうのです」と、川上弁護士は批判する。

「かつての個人事業主は、経験豊かな専門職や自営業者が主流でした。しかし現在、フリーを名乗る若者の多くは、被雇用者とほぼ同じ役務提供型の働き方をしています。スキルも経験もない若者が何の保障も得られず、それがいかに危ういかすら、認識できずにいるのです」

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