「都合のいい労働者?」フリーランスの過酷な実態 搾取からの保護と自由な働き方の保障という難題

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川上弁護士が関わる「ウーバーイーツユニオン」「ヨギーインストラクターユニオン」「ヤマハ音楽講師ユニオン」の3団体は今年5月、フリーランス同士の情報交換や政策提言のプラットフォームとして「フリーランスユニオン」を結成した。「多くのフリーランスは発注者の指示のもとに労務を提供して対価を得ていて、雇用された働き方と大差はない」として、労災や年金、出産・育児・介護休暇に関する、フリーランスと従業員間の格差是正などを訴えている。

厚生労働省、中小企業庁、内閣官房などは今年3月、共同でフリーランスの働き方に関する「ガイドライン」を定めた。しかし川上弁護士は「ガイドラインは、弱い立場の個人事業主にとって最も深刻な問題である、契約解除についての記載が不十分。発注者側は『やむをえない事情』がない限り契約を解除できない、という判例を明文化するなど、実効性のあるフリーランス保護を打ち出すべきだ」と批判した。

副業者からワープアまで 多様なフリーランス

前述した「フリーランス実態調査」によると、フリーランスの国内人口は462万人と試算される。また世帯の生計を担う人の平均年収は、200万円以上300万円未満の人が19%と最も多かった。

ただ副業としてフリーランスを選択する人も248万人と、本業フリーランスの218万人を上回る。

このように、フリーランスにはワーキングプアに近い層から、成長ややりがいを求めて副業を持つ人、1000万円を超える年収を稼ぎ出す高度専門人材ら、幅広い人々が含まれる。多様な働き手を同じ「フリーランス」とくくって法整備をすることに、疑問の声も上がる。

堀田弁護士も「発注者の搾取や理不尽な対応は是正すべき」としつつ、フリーランスの多様性を踏まえ以下のように語る。

「やむをえずフリーランスになった人もいる一方、自由な働き方を自ら選択した人も多い。こうした人たちをも労働者的に保護すると、同時に拘束力も強まり、雇われているのと同じ状況に戻りかねません。これは彼らにとって、望ましい姿ではないでしょう」

雇用の流動性が高まる中、近年は大企業も、プロジェクトベースで外部のプロ人材を迎え入れたり、退職者を社内事情に通じた「アルムナイ」として、業務委託の形で巻き込んだりし始めている。規制が強まると「ようやく社外人材を取り入れ始めた企業の発注意欲が低下し、かえって柔軟な働き方が広まらなくなってしまう懸念がある。バランスが重要なのです」とも、堀田弁護士は指摘した。

岸田政権は昨年11月、フリーランス保護のための法律を早急に国会提出するとの緊急提言を出した。搾取される「名ばかりフリーランス」を保護する一方、フリーランス本来の多様性や、自由な働き方をも保障するという、両面の環境整備が求められそうだ。

有馬 知子 フリージャーナリスト

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ありま ともこ / Tomoko Arima

共同通信社を経て2018年独立。取材テーマはひきこもり、児童虐待、性暴力被害や多様な働き方など。

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