もっとも、上記策定に際し、いわゆる骨太方針(「経済財政運営と改革の基本方針2022」では、「家計の安定的な資産形成に向けて、金融リテラシーの向上に取り組むとともに、家計がより適切に金融商品の選択を行えるよう、将来受給可能な年金額等の見える化、デジタルツールも活用した情報提供の充実や金融商品取引業者等による適切な助言や勧誘・説明を促すための制度整備を図る」とされるにとどまっている。見える化、デジタル化は重要だが、それ自体で資産形成に大きな変化は期待できない。
これまでの政権運営を考慮すると、賃上げと株主還元にトレードオフの関係がある中で、企業にどちらを優先的に求めるのかについて、あまり明確なメッセージが出てこない可能性が高いと、筆者は予想している。
潜在成長率の底上げとデフレ脱却を同時に
「貯蓄から投資へ」に関して、小峰教授は「家計がリスク性の低いポートフォリオを選択するのは、老後や不時に備える意識が強いからだ」とも指摘している。日本の将来や成長への不安を取り除くこと、つまり、潜在成長率の底上げが重要だという点に疑いの余地はないだろう。
また、筆者は2016年に行った分析(下記参考文献)では、「インフレ期待」も株式投資比率にとっては重要なことがわかっている。
これは、個人投資家に行ったアンケート調査の結果を用いて、株式保有比率(金融資産に対する株式等の比率)を被説明変数とし、インフレ予想(1年、3年、5年)を説明変数とした回帰分析を行ったものだ。
株式保有比率に対して「1年先のインフレ予想」は影響を与えていないと考えられる一方、「3年先までのインフレ予想」や「5年先までのインフレ予想」の回帰係数は統計的に有意にプラスとなった。つまり、「デフレ脱却」によって個人のインフレ予想が高くなれば、自然と株式保有比率は上がってくる可能性が高い。株式は預金や債券よりも「インフレに強い資産」と言われるため、自然な結論である。
むろん、政策によって非合理的な「安全志向(現金・預金志向)」は取り除いていく必要はあり、そのためには成長期待が重要なのである。
最終的には「潜在成長率の底上げ」と「デフレ脱却」の両方が「貯蓄から投資へ」の正しい処方箋といえよう。なお、これらは同時に進んでいくことが望ましいことは言うまでもない。
「デフレ脱却」を優先した現在の金融政策は実質所得の目減りという問題を引き起こし、家計や企業のマインドが低下して潜在成長率に対してネガティブに働いているように見える。
むろん、潜在成長率だけが上がっていくと、供給過剰によってデフレ圧力を強めてしまうという問題もあるのだが、どちらかと言えば潜在成長率の上昇を優先すべきだと筆者は考えている。日本は潜在成長率が高い経済だと人々が考えれば、自ずと「貯蓄から投資へ」も進んでいくだろう。
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