「あなたは書く人よ。なんでもいいから自分の文章を書きなさいよ」
2021年11月に亡くなった作家の瀬戸内寂聴さんは、生前、俳優の南果歩さんにそう伝えていたという。雑誌の対談をきっかけに出会った2人は長らく交流を続けていた。南さんは人生の折に触れ、寂聴さんの住む「寂庵」を訪れてはグラスを傾けながら語り合っていた。
「寂聴さんとの時間はいつも楽しくて、多くのことを教えていただきました。よく言われたのは、『これからは自分のために時間を使いなさい』ということ。私は俳優の道を歩みながらも、30代は子育て、40代は家族中心で生きていたし、何かと人の世話を焼きたがるからだと思うんですけど(笑)。寂聴先生のように私も死ぬまで命を燃やして生きていきたいなと。自分の言葉をつづったこの本も、寂聴先生に読んでほしかったです」
人生、努力ではどうにもならないこともある
今年2月に発表した初の自伝的エッセイ『乙女オバさん』(小学館)には、南さんの波乱万丈な半生がつづられている。生い立ちから俳優になるまで、2度の結婚と別れ、大病をも乗り越えて今に至るまでのこと。その道のりで感じて学んできたことを隠すことなくつづっている。
その冒頭で、印象的だった一節がある。
「理由あって、現在おひとり様の私です。人生、努力すればどんなことも乗り越えられると思っていましたが、1人ではどうにもできないこともあるのです」
そして、「その1つは恋愛関係と結婚関係である」と。
たしかに、相手のあることは、自分の努力だけではどうにもならない。過日、どれほど強く惹かれあったとしても、運命に導かれて大切な時をともにしたとしても、人間関係が終わりを迎える時は突然だ。それは、多くの人が経験したことのある現実だろう。
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