MMTが主流派経済学に代わるパラダイムである訳 「非常に良い事例」である日本から考える意義
しかしながら、『MMTとは何か』の出版からその時点で2年近くが経過し、MMTや関連分野についての筆者自身の研究もある程度アップデートされていました。そこで、そうした研究成果を可能な限り盛り込みつつ、テーマによってはMMTとは異なる経済理論や政策論も取り入れることで、単なるMMTの解説にとどまらない、筆者なりのいわば「MMTバージョンアップ試案」も合わせて提示してみたいと考えました。
こうして実現したのが今回の講義であり、そして本書です。全体の構成は『MMTとは何か』を概ね踏襲しているものの、「バージョンアップ試案」ということで、説明が少なからず変わっているところも存在します。章で言えば、MMTの貨幣論を説明した第2章や、今後の経済政策を提言した第6章がそれに当たります。
一方で、全体的なバランスの関係上、『MMTとは何か』よりも説明を簡略化したところもあります。政策オペレーションを説明した第3章や、MMTの経済政策論を説明した第4章がそれに当たります。
したがって、『MMTとは何か』を適宜参照しながらお読みいただくことで、本書の理解がより深まるのではないかと思います。そのうえで、『MMT現代貨幣理論入門』をはじめとしたMMTオリジナルの文献に当たっていただければ、MMTに対する理解が一段と深まるだけではなく、読者なりの新たな発見も生まれるかもしれません。
経済や社会が停滞した状況を変えるために
日本は1990年代後半以降、非現実的な主流派経済学にとらわれた誤った政策を続けることで、失われた20年とも30年とも言われる経済や社会の停滞を招いています。その根本的な要因は、主流派経済学にとらわれた言説がマスメディアなどで氾濫して世論が形成され、有権者である国民の多くがそれを疑わず、誤った政策を主張する政治家や政党を選択し、あるいはそうした状況を放置していることです。
こうした状況を変えるためには、1人でも多くの国民が主流派経済学に代わる適切な世界観を共有し、政策の是非を見極める目を持つことが欠かせません。MMTを学ぶとはそうした世界観の基礎を固めることであり、本書がその一助となることを願っています。
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