43日間マグロ漁船に乗った男が悟った「4つの真理」 "極限状態"を乗り切る知恵がそこにはあった

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言われた人は、まるで先生になったような気分になったかもしれないし、この船のためにもっと頑張ろうと思えたのではないか。短所や未熟な部分は個別に伝え、よい面は全員に伝える。狭いマグロ船でも、一人一芸、各々の居場所を作り、過度な孤独を避ける。それが漁師流の居場所の作り方だった。

孤独は、置かれた状況によってよくも悪くも作用する。たとえば若い人が自分の意志で飲み会に行かない孤独と、大勢の中にいながら感じる孤独。前者は、リラックスできるかもしれないが、後者はみんなの中にいるのに居場所がないことから感じる疎外感だ。

船内という極めて特殊な環境の中で、疎外感、コミュニケーション不足から鬱などメンタルに影響する可能性もあると聞く。誰か特定の人だけが元気であればいいのではない。船員全員の居場所の確保、心の安定が、結果的にチームとしても成果につながっていたようだ。

自分が置かれている現状を数値化してみる

③ 幸せのハードルを下げる

43日の航海中、常時、船酔いに悩まされ、吐かなかったのは3日だけだったと語る齊藤さん。息をするのも苦しく、「寝る」か「吐く」か、ひたすら繰り返した日もあったという。

その日も船内でぐったりしていると、船長から「生きてるか」と聞かれて「はい」と答える。返ってきた返事は「運がいい」だった。からかわれているのか……?と思った齊藤さんだが、船長の考えは違った。

「人は幸せの中にいると、それが当たり前だと思ってしまうもの。俺たちが海からマグロを釣り上げると、マグロは息ができなくなってバタバタしてる。マグロは、陸に上がってみて、初めて海のよさを知ったはずだ。

船酔いもそう。お前が陸に上がったら、床が動かないだけでもありがたいと思うだろう。結果的に、幸せのハードルを下げることができたのではないか」

また、齊藤さんは「吐く」「つらい」などネガティブな気持ちにさいなまれたが、一方では「図鑑にしか載っていない魚が見られた」「船長がとても面倒見がよかった」などポジティブな体験もたくさんしている。

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