スカイマーク西久保氏は、どこで間違えたか 航空業界に挑んだIT経営者、万策尽きる
「長距離国際線のビジネスクラスは値段が高止まりしている。欧州行きもニューヨーク行きも往復100万円近い。これは暴利。相対的に割高な運賃の路線に対して、適正な利益が取れる価格で出せば勝負できる」。国内線で得た実績は国際線にも応用できると西久保氏は考えた。
当時のスカイマークは飛ぶ鳥を落とす勢いだった。そのペースで本業の生み出すキャッシュを支払いに充てていけば、A380は問題なく買えるという腹積もりだった。
危機感もあった。日本国内は人口減でいずれジリ貧になる。「(西久保さんは)いつまでも(高収益が)続くとは思っていなかった」。スカイマークの新社長に就いた有森正和氏は言う。
しかし、スカイマークをめぐる情勢はその後の3年余りで激変する。
ことごとく外れた西久保氏の算段
経営者としての西久保氏の持ち味は、目まぐるしく趨勢が変化するIT業界で得た経営変革のスピードと、徹底した効率化の追求にある。さらには、ゼロの持ち株の一部や、ネット接続事業をGMOに売却したような、タイミングを見極める目利きだ。ただ、今回はそれが生きなかった。算段はことごとく外れたのだ。
まずは為替相場の読み違えだ。A380購入契約を結んだ当時は1ドル=80円近辺で推移していたが、アベノミクスによって一気に同100円超まで円安が進んだ。ドル建てで調達する燃料費や機材費の負担が膨らみ、収益を圧迫し始めた。
A380の購入費用も円安とともに上昇していった。当初は6機合計で1500億円台だったようだが、ハネ上がってしまった。
逆にいうと、1ドル=80円前後という空前の円高がスカイマークの高収益を支えていた側面もあった。為替相場を正確に予測するのは難題であるが、それでも長期で見ると為替も景気も一定の幅で循環する。歴史的な円高局面も円安局面も、長くは続かないのだ。自社に最も有利な為替相場を前提として、大型投資を決断したのだとしたら、西久保氏も認めた「甘さ」というほかはない。
ジェットスター・ジャパンやピーチ・アビエーションなど、スカイマークをさらに下回る運賃のLCCとの勝負においてもそうだ。
2012年から日本の国内線で順次就航したことで、スカイマークは大手とLCCの間に挟まれた。関西国際空港、成田国際空港発着線ではLCCとのガチンコ勝負となり、スカイマークはいずれも搭乗率、平均単価が低迷。関空はすでに撤退。成田発着線は2014年10月下旬で運休に追い込まれた。
西久保氏は関空でピーチを迎撃する算段だったが、返り討ちに遭った。成田には国際線参入を見据えて路線を張ったが、逆にそれにこだわって傷を広げてしまった。