「元夫は出会った当初から、キレやすい人だというのはわかっていました。キレると『使えないヤツだな』とか、『この役立たず』とか、『腐れ女が』とか、そのほかにも、口にできないような本当に汚い言葉で、私をののしるんです。
でも、私には一度も暴力を振るったことがなかったし、キレた後には、『ごめんなさい。ひどいことを言っちゃったね。この怒り方を直さないと、僕はあすみを失うことになるよね』と平謝りしてくるんです」
付き合い出した当初、キレた後にシュンとなっている彼に、「どうしてそんな汚い言葉を使うのか」と聞いたら、こんな理由を言ったそうだ。
「ずっと男子校だったし、男社会、体育会系で生きてきたから、周りが武闘派みたいな連中ばかりだった。ケンカになるとこういう言葉をみんなが使っていたし、それが身に付いちゃっているんだ。あすみと結婚するなら、言葉遣いから直していかないといけないよね」
アラフォーになり「結婚がしたかった」
キレた後にしおらしく謝ってくる彼を見ていると、それが本来の彼の姿なのだと思ってしまった。「結婚して、私が愛情をかけて接していけば、いつかはキレることも、汚い言葉を使うこともなくなるだろうと思っていました」。
何より、40歳になっていたあすみは、“結婚”がしたかった。
38歳の半ばまで、5年付き合っていた恋人がいた。実家が地方で小さな会社をしていたのだが、父親が体調を崩すと、「家業を継ぐ」と言って、働いていたメーカーを辞めて帰郷した。「結婚してついてきてほしい」という言葉もなく、遠距離恋愛になったが、1年経つうちに段々と疎遠になっていった。39歳になり、40歳が見えてきて、結婚に焦っていたときに、友達に誘われて参加した婚活パーティで、やすおに出会った。
名前を出せば誰もがわかる上場企業に勤めているサラリーマンで、同い年。パーティに参加していたのは30代半ばから40代で、中年太りをしている男性も多いなか、やすおはスラッとしたやせ型で背も高く、清潔感のあるハンサムだった。
マッチングして、パーティの後に軽く飲みに行き、連絡先を交換すると、毎日のようにメールが来た。勤務先も近かったので、平日は軽く食事に行き、週末は土日のどちらかで半日や1日かけた長いデートをしていくうちに、2人の距離は瞬く間に縮まった。2カ月後には、結婚の具体的な話も出始めていた。やすおは、とにかく行動派だった。
「5年間も付き合っていて結婚の話を出さない。家業を継ぐとなって帰郷するときに、プロポーズもしない。そんな恋人に比べたら、どんどん行動を起こしていく彼は男らしくて、頼もしく見えたんですよね」
ただ、当初から些細なことでキレることがままあった。
あすみは私に言った。「お互いの家を行き来するようになってからは、キレると汚い言葉でわめき散らして、私をののしって、床を力任せに踏みつけて大きな音を出したり、ソファを蹴飛ばしたり、クッションを壁に投げつけたりする。私は怖くて、体が固まっていました」
しかし、ひとしきりキレて暴れた後には、借りてきた猫のようにおとなしくなり、平謝りが始まる。そして「あすみがいないと、ダメなんだ」と言って、すがってくる。
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