産業構造の改革が必要、金融緩和はやめるべき--野口悠紀雄・早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授《デフレ完全解明・インタビュー第4回(全12回)》
要点
・ 日本の物価下落は相対価格の変化。金融政策は効かない
・ 長期停滞の原因は新興国の工業化とIT革命への不適応
・ 処方箋は産業構造の変革のみ。経営者の能力欠如が問題
──日本経済の問題点とデフレの位置づけは。
日本経済は長期的に停滞している。その中で消費者物価水準の低下と給与の減少は、1990年代後半から続いている。
原因は二つある。第一に、新興国の工業化、特に中国の工業化。それまで日本の製造業の作っていた製品と基本的には同じものを、新興国の企業が安い賃金を使って安いコストで作れるようになった。第二に、IT(情報通信技術)の革命。これによって計算、通信のコストは著しく低下した。これが日本の物価の下落を引き起こした。同時に、こうした変化に対応できていないことが、日本経済の長期的な停滞の原因だ。
しかし、こうした物価下落の原因に関して、世間には誤解や間違いが極めて多い。
誤解の第一はまず、デフレとは、本来、すべての物価が一様に下落することを言うが、過去15年間に日本で起きていることは、相対価格の変化であって、一般物価の継続的な下落ではないということ。90年代の初めと現在とを比較すると、工業製品の価格は40%下落し、サービス価格は20%上昇した。一般物価が下落しているのではなく、相対価格の問題が起きている。つまりすべての物価に影響を与える「貨幣的な現象」ではないということだ。したがって、金融政策で対処すべき問題ではない。
誤解の第二は、需要の減少が価格の下落をもたらしているというもの。この主張も間違いだ。リーマンショック直後は、需要が落ち込んだにもかかわらず、物価はむしろ上昇した。石油価格が上昇したからだ。2009年には物価は下がったが、これも石油価格が下落したことによる。この場合は、日本から産油国へ支払う税金が減るようなもので、歓迎すべきことであって、デフレで大変だ、と騒ぐのはおかしい。工業製品の価格が下がることで、企業の利益が減り、賃金も下がることは企業の立場からは問題だ。
つまり価格の動向は、世界市場の価格の動向によって、受動的に決まる。そして日本国内の産出量の動向は需要動向によって大きく変動する。経済危機によって需要が減ったら、GDPが大きく落ち込んだ。要するに、価格は対外要因で決まり、活動量は需要によって決まる。