日本株、外国人投資家の懐疑の目が変わる時 アベノミクス推進に必要な「2つの決断」とは?

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2012年末の安倍政権誕生を機に行われた日銀総裁など執行部の人選は、従来のように霞が関や日銀による、事前の根回しで決まらなかった。浜田宏一内閣府参与などのアドバイスに首相官邸が従い、標準的なマクロ経済理論に基づいた実践的な金融政策に関する見識を有するかどうかという資質が最重視され、その結果、日銀の体制が180度転換した。組織刷新と2%の物価目標設定とがほぼ同時に実現したことで、2013年初の大幅な株高と円高修正を後押しした。

2015年中に任期を迎える審議委員の後任選定が、同様のプロセスを経て首相官邸によって進んでいるなら、金融緩和によるインフレ安定のために緩和政策に積極的な現在の執行部を支える、という観点から人選が行われる可能性が高い。

民主党政権時代に霞が関の根回しによって選ばれた現在の日銀審議委員は、現行の金融緩和政策に懐疑的である。実際に、2014年10月の量的質的金融緩和政策は5対4というギリギリの評決だったが、その際反対票を投じた審議委員の一人が2015年に任期を迎える。こうした人物と真逆の考えを持つ有識者が、新たな日銀審議委員に選定されるかどうかである。

もう一つは、日銀法改正を目指す政治の動きである。日銀の体制変革による金融緩和強化によって、長年続いたデフレから日本経済はようやく抜け出しつつある。ただ過去20年近くも日銀がデフレ退治を実現できなかった大きな理由は、現在の日銀法において、同行の使命・目標・責任の所在が曖昧だったことがある。

日銀法改正に動き出す自民党、「政治の後押し」を注視

中央銀行の重要な任務は物価安定であるというのは世界の常識だが、過去20年近くも世界標準のプラス2%のインフレ率について、ほとんどの期間日本では実現しなかった。日銀は物価安定に失敗し続けたわけだが、政策を実行した執行部が責任を問われることは全くなかった。

日銀へのチェック機能やガバナンスに、大きな欠陥がある現行の法体系を変えることが求められている。つまり、仮に政権が変わっても、日本銀行がマイルドなインフレという正常な経済状況を安定させる責任を自認しつつ政策運営を続ける、法律で定めた枠組みが必要になるということだ。

自民党の山本幸三衆議院議員は、金融緩和強化の必要性を安倍首相らに認識させたアベノミクスの立役者だが、同氏はロイターにおけるインタビュー記事
で日銀法改正に関して、「今年中に政府案をまとめ、来年の通常国会に法案を提出する」と述べた。

記事によれば、具体的には、日銀の目標に雇用問題を追加することなどが想定されている。安倍政権誕生後に、日銀法改正を目指す動きが進んでいないことに筆者はこれまで大きな懸念を抱いていたが、2015年から政治イシューとなるなら、グッドニュースだ。

米連邦準備制度理事会(FRB)と同様に、「雇用最大化」が明確な日銀の目標になるとどうなるか。リーマンショック後にFRB のように果敢に金融緩和に踏み出さなかった、旧体制による日銀よる金融緩和が不十分だったため、リーマンショック後に日本は超円高とデフレ不況に苦しんだ。こうした政策判断のミスで、悪夢が繰り返されるリスクが大きく低下する。

消費再増税の見送りで仕切り直しとなったアベノミクスによる、脱デフレと経済正常化が2015年以降、完遂するかどうか。黒田総裁率いる日銀の金融政策判断とともに、脱デフレ推進を後押しする安倍政権が上述の政策イシューについて、「政治の後押し」を実現するかどうかは極めて重要だ。今後の安倍政権への信認がさらに高まるかどうか、投資家の立場から、筆者はこの点に最も大きな関心を抱いている。
 

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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