キングダムに学ぶ「権力闘争」現代にも通じる本質 64冊一気に読破した小島武仁・東大教授が解説

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――昨年、「武器としての難民」の問題が報道されましたが、それともつながります。「ベラルーシが中東からの難民を意図的にポーランドに送り出し、EUを混乱させようとしているのではないか」という話でした。

人が移動すれば衣食住、働く場など、移った先でどのように生きていくかという課題が発生する。難民・避難民を安全な地域に受け入れることは人道的にとても重要な課題ですが、長い歴史の中、ずっと難しい問題であり続けてきました。何が難しいかというと、受け入れる国や地域の負担が非常に重いこと。『キングダム』でも、難民が押し寄せた鄴では食料が足りなくなって暴動が起きました。

これについて、実は僕の専門分野でもあるマッチングの分野で研究が進んでいます。難民を受け入れる側の負担がどのくらいか、もしくは難民受け入れ側の状況がむしろ改善するのはどのような場合か。これは、どんな人をどの街が受け入れるかの組み合わせ、マッチングによって結構変わることが明らかになっています。

単純な話だと、例えば受け入れ側の街に難民となった人と同じ言葉をしゃべる人がいるかいないかで、生活や就労の難しさは変わる。難民がうまく地元に溶け込み、失業者にならず仕事が見つかるかどうかは、どこが受け入れ地になるかの影響が大きいんですね。

AIを用いて配置しようとする動きも

これまでは、受け入れ地に対してランダムな割り当てが行われてきましたが、5〜6年前からAIを用いたアルゴリズムによる配置をしようという動きがある。僕の前職のスタンフォード大学の同僚たちが、AIを使ってマッチングをすると難民が受け入れ地で失業しない確率がかなり上がる、という論文を発表しています。

アメリカではこうしたマッチングの仕組みがすでに実装され始めています。ウクライナから多くの人が国外に避難していますが、日本で難民・避難民を受け入れるための世論を形成していくに当たっても、受け入れ地にもメリットがあることや、負担がどの程度になるか、それを軽減できる地域がどこなのかを示すことは重要です。

こういった感じで、今回は『キングダム』を読む中で、経済理論とのつながりや現代の社会問題を考えるきっかけをいくつも見いだすことができました。漫画が大好きなので今後も色々と読んでいきたいと思いますが、読み方のバリエーションが増えたような気がしています。『キングダム』は続きも読みたいと思っているので、65巻の発売が楽しみです。

『漫画「キングダム」(第1話)身の丈を超えた野望』はこちら

山本 舞衣 『週刊東洋経済』編集者

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やまもと まい / Mai Yamamoto

早稲田大学商学部卒、2008年東洋経済新報社に入社し、データ編集、書籍編集、書店営業・プロモーションを経て、2020年4月育休を終え『週刊東洋経済』編集部に。「経済学者が読み解く現代社会のリアル」や書評の編集などを担当。

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