全日空がLCC会社を設立、本体の半額の運賃で3年後に単年度黒字化計画

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全日空がLCC会社を設立、本体の半額の運賃で3年後に単年度黒字化計画

全日本空輸(ANA)は持分会社で参入する予定の格安航空(LCC)事業の概要を明らかにした。2011年度下期にリース機材を使い、国内線とアジア方面の国際線で運航を開始する。ANAの半額程度の運賃で国内外の旅客を集め、3年後には単年度黒字化を見込む。

10日、LCC事業を展開するA&F・アビエーション社が設立・登記され、ANA出身の井上慎一代表取締役CEO(最高経営責任者)が記者取材に応じた。A&F社は現在、ANAと香港の投資会社ファーストイースタン・アビエーションなどが合計約3000万円を出資している。就航までに両社、外部投資家などで150億円程度(出資比率はANA40%、ファーストイースタン33%)に増資する。

3月以降にブランド立ち上げを行い、機体デザインやカラー、客室乗務員のユニホームなどを発表。11年度下期に関西国際空港を拠点に、国内線とアジア方面の国際線各3~4路線で就航する。初年度5機の機材は「200席の中型機」(井上CEO)としており、エアバス320が有力だ。5年後には15~20機まで拡大させる。年間旅客数は600万人の想定。 

井上CEOによると、新LCC会社は単一機材、多頻度運航、片道4時間以内のショートホール、社員のマルチタスク化などLCCのビジネスモデルを徹底的に追求する方針。注目されるのは想定するコスト水準で、「ANAに対しコストは半分にしたい」(同)と明言した。ANAやJALは単位当たりコスト(CASK、総コストを提供座席×運航距離で割った値)が14~15円程度で、この半分となると7~7・5円。既存の格安航空会社であるスカイマークの8・45円より安いコストを打ち出したことになる。「最も参考にしているLCCは英ライアンエアー」(同)といい、ライアンのCASK6~7円に近づくことを目標にしている。

コスト低減はLCCとしての正攻法で臨む。「ライアンと(大手航空会社の)ルフトハンザでは、1人当たり人件費はライアンのほうがわずかに高い。結局、ライアンは優秀な社員が(機内清掃などの)マルチタスクでコストを下げているということ」(同)という。また機材は大手が1日当たり7~8時間の稼働であるのに対し、他のLCCと同様同12時間程度。座席ピッチも短くして1機当たりの搭乗者数を最大に持って行く計画。これが収入の最大化に効いてくる計算だ。また機材整備などで積極的にアウトソーシングも活用していくという。

ただ、エアアジアやジェットスターアジアなどCASKが3円程度とされるアジア勢の水準までコストを下げることは難しいようだ。またANAとのすみ分けについては、「運賃を半額程度にして、日本人の旅行や親族訪問利用、さらに価格に敏感なアジアの方の潜在需要を掘り起こしたい。それでパイが広がれば、ANAと多少の食い合いがあってもプラスの意味が大きい」(同)という。

ANAに次ぐ大株主であるファーストイースタンでは、ヴィクター・チュー代表が幅広い人脈を持つ。井上CEOは「将来中国市場の攻略に乗り出した際には、彼の知識や経験、人脈が生かせる」とみている。

(野村 明弘 =東洋経済オンライン)

 


《東洋経済・最新業績予想》
 (百万円)    売 上  営業利益   経常利益  当期利益
連本2010.03    1,228,353    -54,247    -86,303    -57,387
連本2011.03予   1,377,000     70,000     37,000      6,000
連本2012.03予   1,490,000    110,000     67,000     40,000
連中2010.09      684,147     56,816     45,505     13,277
連中2011.09予     740,000     72,000     61,000     35,000
-----------------------------------------------------------
          1株益¥    1株配¥
連本2010.03        -24.7          0 
連本2011.03予         2.4          1 
連本2012.03予        15.9        1-4 
連中2010.09          5.3          0 
連中2011.09予        14.0          0 

 

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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