私は生まれなおしている 日記とノート 1947−1963 スーザン・ソンタグ著 デイヴィッド・リーフ編/木幡和枝訳~知性と行動の人の極私的世界
20世紀アメリカの知性と良心を代表する小説家、批評家、人権運動家、正義の使徒の形成期が赤裸々に綴られた14歳から30歳までの日記である。
ランダムに、極私的世界のある日をのぞいてみる。「オーガズムはあらゆるサイズでやってくる:大、中、小……より深く感じるのはされる側……『純粋にオトコ体質』の男役(ダイク)は相手にぜったい自分を触らせない」。堂々たる知性と行動の人、26歳の記述である。パリ、レズビアンの共生相手と葛藤のさなかだった。
同日同じページの記述には、ローマ帝国の軍隊の単位の情報に続いて「私は、傷でもあり小刀(ナイフ)でもある! 犠牲(いけにえ)でもあり、刑吏でもある!」(ボードレール)、「充溢(じゅういつ)は美である」(ブレイク)のメモ書きがある。アクセス可能なあらゆる文学、哲学、宗教、革命、巷の情報がメモされ、早熟な著者のエロスと頭脳が共鳴している。
英才教育制度で16歳からカリフォルニア大学、シカゴ大学、ハーバード大学、英オックスフォード大学をなで切りにし、その間に結婚、出産、離婚。そしてパリのボヘミアン社会に飛び込む。
この日記が終わる1963年、ソンタグは作家としてデビュー、『反解釈』『ラディカルな意志のスタイル』などの過激な評論集で一世を風靡する。晩年、9・11直後のブッシュ大統領への痛烈な批判で保守派の標的にされながら、ノーベル文学賞候補ともなったが、その旺盛な執筆活動は生涯で三度目のガンのため2004年末に終わった。
本書の表題「私は生まれなおしている」は、自由意志で生きる己への宣言(マニフェスト)であると同時に、切羽詰まりながらも愚鈍な日常感覚に埋没している憂き世のわれわれに対する、泉下のソンタグからの檄文であると
も読める。
Susan Sontag
1933~2004年。20世紀アメリカを代表する批評家・作家の1人。著書に『反解釈』『ラディカルな意志のスタイル』『写真論』『隠喩としての病い エイズとその隠喩』『土星の徴しの下に』など。
河出書房新社 3360円 415ページ
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