在宅は出世に影響?近くにいるほど「高評価」の謎 日本人の有休消化率はなぜこれほど悪いのか

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ここでまた少し視点を変え、承認欲求の独特な性質に注目してみよう。

承認欲求は自力だけでは充足することができず、相手の自由意思に依存するという受動的な性質がある。テレワークで出社しないと不安になるという理由には、そうした承認欲求の性質も関わっていると考えられる。

いくら仕事ができても、それを評価するのは上司である。とくにテレワークの場合、仕事ぶりが周囲から見えにくいので、仕事の出来不出来は上司に評価されるか否かにかかっているといってもよい。しかも日本企業では仕事の分担が不明確なので一人ひとりの成果を捕捉しにくく、そのぶん評価者の感情や利害関係が評価に入り込みやすい。

約2割の人が個人的感情で評価をつけている

それを裏づけるデータがある。日本企業と欧米企業のホワイトカラーを対象とした2001年に行われたある調査(回答数計1406)によると、感じのよい部下に対して「甘い人事評価をつけることはない」という回答は欧米企業で75%、日本企業で29%、逆に「甘い人事評価をつけることがある」という回答は欧米企業で6%、日本企業で20%と大きな差がある(佐久間賢『問題解決型リーダーシップ』講談社、2003年)。

日本人の承認欲求―テレワークがさらした深層―(新潮新書)
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それにしても2割の人が、個人的感情で評価をゆがめていると自白しているのは驚くべきことではないか。

一般に個人的なつながりが深いほど特別扱いしやすいことは「内集団ひいき」や「ネポティズム」などとして知られているが、物理的な近接性も感情や利害関係を左右する。互いに近接しているほど相手に対する情報も、また承認の機会も多い。もちろんそこには正の承認だけでなく、負の承認も含まれるが。

そのため近接しているほど承認するにしろ、しないにしろ、相手に対するインパクトが大きくなる。つまり離れている人なら自分を認めてくれるか否かはさほど問題でなくても、ふだん接している人から認められるか否かには無関心でいられないわけである。

太田 肇 同志社大学名誉教授

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おおた はじめ / Hajime Ohta

兵庫県出身。同志社大学名誉教授。経済学博士。主な研究分野は個人を生かす組織・社会づくり。日本における組織論の第一人者として著作のほか、働き方改革や社員のモチベーションアップなどに関するマスコミでの発言、講演なども積極的にこなす。また猫との暮らしがNHKで紹介されるなど、愛猫家としても知られる。著書は、『日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったか』(集英社新書)、『「自営型」で働く時代』(プレジデント社)、『何もしないほうが得な日本』(PHP新書)、『日本人の承認欲求』(新潮新書)など40冊以上あり、大学入試問題などに頻出している。『プロフェッショナルと組織』(同文館出版)で組織学会高宮賞、『仕事人と組織』(有斐閣)で経営科学文献賞、『ベンチャー企業の「仕事」』(中公新書)で中小企業研究奨励賞本賞を受賞。

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