例えば2005年以降、日本の経常黒字は第1次所得収支が大半を占めている。2021年1~9月のデータをみると、日本の経常黒字13.7兆円のうち、財貿易黒字は2.3兆円、第1次所得収支は16.4兆円である(サービス貿易は赤字)。その第1次所得収支の中心は、直接投資収益8.4兆円と証券投資収益7.1兆円で、直接投資収益の2割強は中国から流入している。
ここで日中、日米間のデータを比較してみると、日本の対中直接投資収益1.8兆円(受取1.8兆円、支払91億円)に対し、対米同収益は1.3兆円(受取2.1兆円、支払0.7兆円)となっている。他方、証券投資収益は、対中収益は641億円(受取906億円、支払266億円)に過ぎないが、対米収益は2.6兆円(同収益全体の4割弱。受取4.8兆円、支払2.2兆円)である。
相互信頼の土台を築ければ日中間の資本移動は増大
このように投資収益の流れをみると、全体としては日中関係よりも日米関係のほうが広く深いが、企業・投資家によって状況は区々であり、この10年ほどの間に中国のウェイトが急増していることも無視できない。今後、相互信頼の堅固な土台を築ければ、日中間の資本移動はさらに増大するだろう。その第一歩としては、為替送金の円滑な実施を担保する仕組みや金融取引に関する透明かつ公正な紛争処理メカニズムの構築ないし改善が有効ではないか。
東京国際金融市場のさらなる発展のためには、成長著しいアジア諸国の投資家や企業をさらに呼び込みたい。この点でも、1人当たり国民所得(GNI)が1万米ドルを超え、高所得国に近づいている中国への期待は大きい。アジアに蓄積されつつある金融資本の大きさに鑑みれば、東京、上海、香港がそれぞれの特徴を生かし、相互補完的な市場としてともに発展することは十分に可能だろう。
また、アジアで格段に大きな金融市場を有する日中両国には、金融面の国際ルール作りにおいて、アジアの声をまとめ上げ、それを新ルールに反映させていくために協力することも期待されている。この点に関しては、アジア域内の政府を含む多様な市場参加者がさまざまな視点から意見・情報交換を積み重ねていくことが重要である。日本も中国も、これまでにそうした場の提供を積極的に行ってきたが、両国が協力して働きかけを行うことで、より効果的に成果が上がるケースも出てくるのではないか。
(岡嵜久実子/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら