中国は目下、2008年のグローバル金融危機時に打ち出されたいわゆる「4兆元の景気刺激策」を主因とする過剰債務問題への対処に追われている。当該刺激策はリセッション回避策としては効果的であったが、その裏側で地方政府、企業、家計部門の債務を持続可能性が疑われるレベルにまで急増させた。
2010年代半ば以降、中国政府は過剰債務の削減を優先政策課題に掲げているが、経済成長速度が鈍化する中、痛みを伴う債務リストラはなかなか進展しなかった。さらに米中摩擦の深刻化やCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)対策の経済への打撃で、状況は厳しくなっている。
とくに中国の不動産バブルと地方政府債務の問題は、かねてより「灰色のサイ」とみなされ、その動向が懸念されていた。「灰色のサイ」とは、誰の目にも見えていて普段はおとなしくしているものの、いったん暴れ出すと破壊的ショックをもたらしかねない金融リスクの譬えである。
2018年以降、地方商業銀行の経営危機、不動産企業の債務不履行、地方政府の財政危機などの問題が局部的に発生し、市場を動揺させている。これまでのところ、人民銀行が流動資金を潤沢に提供して市場の動揺を抑えるとともに、金融監督部門、財政当局、省政府などとともに、関係者に対する指導と支援を行い、「灰色のサイ」の暴走を回避している。
しかし、諸問題は相互に関連し、抜本的解決には至っていない。中国政府が金融リスクのコントロール強化と市場化推進のバランスに悩む状況は、なおしばらく続きそうである。
人民元の通用力強化
グローバル金融危機を機に、中国の国際金融上の行動にも変化が生じているが、資本取引規制緩和の遅れがその実効を妨げている面がある。
当時の国際金融市場の混乱を受け、中国政府は米ドル依存の不安定さを強く認識し、対外決済において人民元の利用を促す方向に舵を切った。また、主に貿易・直接投資相手国との間で双方の通貨利用を支える狙いから、人民銀行は2009年以降、約40の中央銀行などとの間でバイラテラル(双方)の通貨スワップ協定を結んでいる。
その頃、中国は国際通貨制度改革の必要性を主張し、人民銀行のトップが国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)の機能強化を提案することもあった。さらにアジア地域のインフラ建設資金需要に応えることを主目的に、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立を提案し、最大の出資者として2016年の開業を主導した。
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