「人口100万人以上の都市に初めて新幹線が開通する」という点では、札幌延伸は、1975年の山陽新幹線・博多開業以来の出来事である。かつて盛んに用いられた「国土軸」という視点からみても、ひとつの大きな到達点といえる。
加えて、新幹線はもともと、人口数十万人規模の県庁所在地にはオーバースペック気味の鉄道だ。その意味で、札幌延伸は「新幹線ネットワークは日本にとってどんな存在なのか」をめぐる、「答え合わせ」の場面になりそうだ。
しかし、「新幹線時代の札幌」のイメージはまだ伝わってこない。途中駅の長万部駅ができる人口5000人足らずの長万部町では、高校生が先頭に立ち、新幹線駅のデザインコンセプトを取りまとめたり、新青森駅へ視察に訪れたりしてきた。その姿に接していると、「近未来」への危機感のギャップを感じざるを得ない。
もちろん、無理もない一面もある。人口約200万人の札幌市で、しかも開業まで9年の時点で、新幹線延伸を「自分ごと」と考えるには、業務上の新幹線との接点や、よほど強烈な体験が要るだろう。
イメージ湧きにくい「開業後」
ある札幌市民は「まだみんな『9年先に新幹線が来るとはどういうことか』がわかっていない。仮に乗車体験があったとしても、沿線地域がどう変わり、どんな努力をしてきたのか、それを知る機会もない」とみる。近年、急増している冬季の荒天に伴う、新千歳空港やエアポート・ライナーの混乱は、多くの市民にとって、北海道新幹線延伸と関連付けにくい現象なのかもしれない。
青森市出身で小樽市在住の会社員、西村裕司さんは最近、仏事で両市を往復する機会があり、「今なら前日、青森市に前泊するしかない。飛行機は便数が少なく、日帰りは困難。しかし、新幹線が開業すれば日帰りで往来できる」と見込む。ただし「後志(しりべし)には思いのほか青森にゆかりのある人が住んでいるので、ひっそりと喜ばれる可能性はあるけれど、どれだけ需要があるかは微妙」と付け加える。
豊平区に持ち家がある横浜市の会社員、宮野泰さんは「首都圏や大阪へのアクセスは、飛行機があることから、不便なくできている。強いて挙げるなら、八戸出身の妻の実家には帰りやすくなるのか。青函エリアの人は札幌へのアクセスがよくなるので、どうか活用するかがカギ」と見通す。
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