3800人看取ったホスピス医が説く「生きるヒント」 「人生は自分をわかってくれる人を探す旅だ」
その患者さんに対して私たちがしたことは、ただひたすら、丁寧に話を聴くことでした。
故郷のこと、曲がったことや人から指図されることが嫌いなご自身の性格のこと、病気の苦しみ……。
話をしているうちに、おそらく患者さんは、私たちのことを「自分の気持ちをわかってくれている」と感じてくださったのでしょう。
表情が徐々に穏やかになり、「苦労の多い人生ではあったけれど、自分を曲げてまで生きるよりはよかった」と口にされるようになりました。
ありのままの自分でいられる方法
自分の気持ちをわかってくれていると思える誰かの存在は、ありのままの自分でいられる強さを与えてくれます。
これまでに私たちが関わった患者さんの中には、体にたくさんの管をつけながら、本当に動けなくなるギリギリの瞬間まで仕事をしていた方もいらっしゃいました。
末期のがんになり、ご自身も大変な中で老々介護をし、夫を見送った後で亡くなられた方もいらっしゃいました。
「そんな体で仕事をするのはやめなさい」「夫の介護は施設に任せなさい」という人もいるかもしれませんが、私たちには、その患者さんたちにとって、仕事をすること、夫の介護をすることこそが、ありのままの自分でいられることであり、病気の苦しみの中で生きる支えになっていると、私たちには感じられました。
私たちは、仕事に、介護にいのちを燃やすお2人を静かに見守り、ときには丁寧に話を聴きました。
やがて、その患者さんたちは、満足しきった穏やかな表情でこの世を旅立たれました。
人それぞれ、大事にしたいことも、望む「ありのまま」の形も異なります。
世間でいいとされていること、大事にするべきだとされていることが、必ずしもその人にとっていいわけではなく、大事なものであるともかぎりません。
そして、親でもパートナーでも友人でも、あるいはペットや先に亡くなった誰かでも、自分の気持ちをわかってくれていると思える存在がいるとき、私たちは安心して、ありのままでいることができます。
私たちが自分らしくいられるのは、誰かがわかってくれるからなのです。
ですから、多くの人は、大変な時間と労力、エネルギーを割いて、自分をわかってくれる人を探そうとします。
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