「社員の汗を思い浮かべて、経営をせんといかん」

常に部下を思いやる心を忘れなかった

結果、「なんと第2位で当選したんや」。ここに政治家・松下幸之助が誕生することになった。松下の区会議員の働きが、どのようなものであったか知らないが、松下らしい生真面目さで取り組んだに違いない。そのため、会社の経営、病弱の身、相当な負担であったと思う。事実、区会議員は一期で辞めている。

「その選挙運動で、他の候補者は、毎日のように、何回も戸別訪問をして投票を依頼するわけや。けど、わしは、各家1回しか訪問しなかった。何回も行くということは、相手に迷惑をかけるんではないか。それで、“ご迷惑でしょうから、今回で、もうお願いには来ません。よろしくお願いします”と言うて回った。実際、候補者が、毎日毎日、訪ねてくるのは、迷惑やったんやろうな。1回しか訪問せんかったわしが、結果、2位当選したんや」と呵々大笑していた。

社員に申し訳なくて、よう食べんのです

それはともかく、ある日、松下が道を歩いていると、選挙を通じて知遇を得ていた、17歳年上の区会議員の石井氏と出会った。長い立ち話になった。すると、その石井氏が、近くのレストランに入って、お茶でも飲みながらと言う。レストランに入ると、彼は、ランチを二人前注文した。運ばれてきたランチは、松下の予想を超えて、豪華なものであった。それを見て、松下は手をつけない。彼は食べながら、いぶかしそうに「体の調子でも悪いのか」と尋ねると、松下は、申し訳なさそうに答えた。

「社員たちがいま、汗水たらして一所懸命に働いてくれていることが、ふと頭に浮かびましてね。それを思うと、私だけが、この時間、ご馳走を、と思うと、社員に申し訳なくて、よう食べんのです」。

感銘した石井氏は、ますます松下に対する信頼を深め、後には、ついに、自分の商売をやめて、松下電器に入り、松下幸之助に協力することになる。

その話を知っていたし、「いつも社員の汗を思い浮かべて、経営をせんといかんよ」と松下から聞かされていた私。缶ビールを飲まなかったN氏。改めて、「頭で知る」だけではなく、「身で知る」ことの大切さを、N氏から教えられたことを、今でも忘れる事ができない。

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