32歳ニートがサラブレッド牧場に賭ける夢 都会の「若き就職難民」を地方で救えるか
時代を彩る数多くの名馬を産出した、サラブレッドの郷・北海道日高町。シンボリルドルフ、ミホノブルボン、ゴールドシップ――。競馬に詳しくない人の間でも知られているこれらの名馬たちは、すべて日高出身である。
広富牧場は、日高町でそんなサラブレッドを育てる「生産牧場」の一つだ。サラブレッドの種付けや出産に加え、デビュー前の仔馬を預かり、人に慣れさせるなど競走馬としての資質を養う上で最も重要な役割を担う。
筋金入りのニートが極寒の地で働く?
2014年の暮れ。極寒のこの地にある広富牧場で働きたい人を対象にした3週間の研修に、ある32歳の男性が応募してきた。薮内豊さん。日高町に縁もゆかりもない都会に暮らす人物だ。彼が特異なのは「ニートひと筋32年」という経歴。学校卒業後の10数年、定職にも就かず実家でずっと親に食べさせてもらう日々を続けてきたという筋金入りの「ニート君」である。
ニートとは「Not in Employment, Education or Training」の略で、「15~34歳の非労働力人口のうち、家事も通学もしていない者」と定義される。厚生労働省「若者雇用関連データ」2014年や総務省の「国勢調査」などによれば、日本国内のニートは現在約60万人で、首都圏の1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)だけで実に10万人を超える。
だが、ニートのすべてが働く気がない者たちばかりかというと、決してそんなことはない。2008年に横浜市が市内在住の15~34歳のニートおよそ750人を対象に労働意欲に関する調査をしたところ、8割を超す者が「就職を希望する」と回答。就労意欲の無い者は少数派だということが分かった。彼らニートは決して「働く気がない」わけではなく「働きたいけど働けない」のがおおかたの事情なのである。
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