現地日本人が語る「上海ロックダウン」の過酷実態 破綻する「ゼロコロナ政策」だが、批判はできず

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「いまや大半の国がウィズコロナに転換し、経済活動を正常化させていこうという段階に来ているのに、中国は大規模かつ徹底的な集団検査と隔離によるゼロコロナ政策を推し進め、パンデミック初期のようなロックダウンを敢行している。これは果たして本当に必要なことなのか、中国人の間では疑問が広がっています」

中田さんはそう語る。

中国はこれまで自国のコロナ封じ込めを世界にまれに見る成功例と誇ってきたし、国民もそれを支持してきた。それは膨大な感染者と死者を出した欧米諸国に対する、中国の優位性の証明でもあった。だがオミクロン株の驚異的な感染力の前にゼロコロナは破綻しつつある。

ゼロコロナ批判は党の指導に刃向かうに等しい

「しかしゼロコロナは3期目を既定路線としている習近平国家主席が打ち出してきた政策でもあります。これを否定して転換することは、政治的には非常に難しい。また表立ってゼロコロナを批判することは党の指導に刃向かうに等しく、危険な行為です。だからSNSで不満を吐き出す中国人が増えているのでしょう」

しかしネット上だけでなく、上海では一部で市民がロックダウンを破って外出しており、さらに騒動が広がる可能性もある。また強引な「ゼロコロナ」自体がひとつの「チャイナリスク」として世界的に認識されてしまうと、中国市場から撤退する日系企業も増え、人材や資本の流出につながるかもしれないと中田さんは言う。

「これまでは中国の強みだった厳格なコロナ対策が、いまではリスクに転じてしまっており、欧米メディアからも問題視されてきています。こういった批判に対して当局は過敏で、むしろ頑として政策転換は行わないとみられています。少なくとも秋に行われる予定の党大会まではゼロコロナの旗は降ろさないでしょう」

中国から始まったコロナ禍は、再び中国を襲い、混乱をもたらしている。

室橋 裕和 ライター

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むろはし ひろかず / Hirokazu Murohashi

1974年生まれ。週刊誌記者を経てタイに移住。現地発の日本語情報誌に在籍し、10年に渡りタイ及び周辺国を取材する。帰国後はアジア専門のライター、編集者として活動。「アジアに生きる日本人」「日本に生きるアジア人」をテーマとしている。主な著書は『ルポ新大久保』(辰巳出版)、『日本の異国』(晶文社)、『おとなの青春旅行』(講談社現代新書)、『バンコクドリーム Gダイアリー編集部青春記』(イーストプレス)、『海外暮らし最強ナビ・アジア編』(辰巳出版)など。

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