P-1哨戒機の対英輸出計画は「画餅」である 武器輸出で華々しい成果を狙い過ぎ

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防衛庁(当時)と海上幕僚監部はP-1の開発を渋る石破茂防衛庁長官(当時)に、「エンジンが4発なのはパイロットの安心感のためです。パイロットの気持ち、わかりませんか」と、開発の承認を詰め寄った。孤立した石破氏は最終的にはP-1の開発を認めざるを得なかった。だが、石破氏は後に筆者に対して「信頼性の低い4発のエンジンよりも、信頼性の高い双発エンジンの方がいいと言うパイロットもいたのだけれど」と述べている。筆者も現場の隊員から同じことを聞いている。

C-2輸送機は2発機だ(写真:航空自衛隊岐阜基地)

P-1が生存性を理由にエンジンを4発にするならば、「二卵性双生児」であるC-2こそ4発にするべきだった。100名以上の隊員を空輸できるC-2が墜落、あるいは撃墜された場合、その人的損害はP-1の比ではないからだ。ところがC-2は双発で、民間旅客機で採用された大型エンジンを採用している。防衛省の「人命が大事」には整合性がない。

そもそも低空を低速で長時間飛行し、また運動性を必要とされる潜水艦を探知と、高空を高速で一直線に航行するのは二律背反する。これを両立するのは極めて困難だ。たとえるならば悪路を走る4輪駆動車と、高速道路を高速で走るフェラーリのようなスポーツカーのような機能を一つの車体に併せ持たようとするようなものだ。このようなないものねだりは虻蜂取らずに陥りやすい。

多くの哨戒機メーカーは無難にターボプロップの輸送機や旅客機などをベースにした機体を開発している。哨戒機の任務は何かということを考えれば、該当空域までの速度よりも哨戒機能を重視すべきである。であればターボプロップ機が選ばれるのは当然だ。

調達コストは当初の100億円から約2倍に

生産機数60機程度を見込んでいたP-1に、専用のドンガラの機体、専用のエンジンを開発したために極めて高い調達単価と維持費が必要になっている。調達コストは当初の100億円ほどから約2倍に高騰している。

専用機体がどれだけコストが高いか。例えば三菱重工が開発中のリージョナルジェット、MRJは採算分岐点が350~400機とされている。MRJが専用のエンジンを開発していたら、さらに採算分岐点は先に延びるだろう。コストパフォーマンスを考えれば、わずか60機ほどしか生産しないのに専用の機体を開発することがどれだけ贅沢かわかるだろう。

P-1の開発関連費用は約3081億円に過ぎない。諸外国の開発例をみればこの予算では機体、エンジン、システムそれぞれに充分な開発費がかけられなかったはずだ。C-2のコンポーネントの共用化も成功したとは言いがたい。本来機体規模も違い、P-1は4発の低翼機で、対してC-2は双発の高翼機であり、機体構造も違う。事実アクチュエーター系など本来共用化すべきコンポーネントが結局別々に作られることになり、開発・生産コスト高騰の一因となっている。

防衛省はP-1とC-2の機体重量の15パーセント、搭載品目の75パーセントが共用化されると宣伝してきたが、それがどれだけ低下したのかは発表していない。

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