哨戒機P-1と輸送機C-2は、ともに川崎重工の製造によるもので、同時に開発された二卵性双生児のような機体だ。同時開発された目的は、部品などの共通化によって開発・調達・維持コストの低減を図るためだったが、後述するようにこれは成功していない。
P-1は構造的に、そもそもコストが高い。哨戒機は潜水艦を探知するために低空を飛ぶ必要があるため、プロペラを用いたターボプロップ機が使用されてきた。ターボプロップ機はジェット機に較べて低空における飛行性能が高いためである。ところが、P-1では該当空域まで高空を短時間で移動するためジェットエンジンを採用した。さらにエンジンは冗長性・生存性の確保のために4発備えている。
搭載システムもすべて開発
現在のジェット旅客機は高空を高速度で飛ぶことに特化しており、機体形状は低空を哨戒飛行することには向いていない。高空を高速で飛ぶ機体と、低空を低速で飛ぶ機体では主翼の設計からして異なってくる。一般的に哨戒機は旅客機など既存の機体を流用することが多いが、このため既存の旅客機をベースにすることができない。またP-1と同じクラスのジェット旅客機などには4発の機体が存在しない。これを理由にP-1は機体、エンジン、搭載システムのすべてを一から開発することになった。
通常、この種の哨戒機は開発・調達・維持コスト、そしてリスク低減のために既存の旅客機や輸送機をベースに開発するものだ。
海自が使用している現用のP-3C(ロッキード社)の原型は旅客機「エレクトラ」であり、米海軍が新たに採用したP-8(ボーイング社)もベストセラー機のボーイング737をベースに開発されている。
ベストセラー機をベースに開発すれば開発・調達・維持コストを大きく低減できる。パーツや整備も旅客機や輸送機と共用なので、量産によってコストが安い上に世界中で手に入る。また既に機体があるので、開発リスクも大幅に低減できるためだ。
ただ筆者はP-8の実用性に関しては懐疑的だ。ベースとなったボーイング737は高空を高速で飛ぶ旅客機であり、低空を低速で哨戒飛行するのに適していない。UAV(無人機)などを併用するなどの対策を講じているが、根本的な解決策にはなっていない。そうした問題があっても、あえて転用を選択したのは、米海軍といえども予算の上限があり、哨戒機の機体やエンジンまで開発するような予算は捻出できないためだ。
つまり海自は世界最大の予算を使う米海軍よりも贅沢な道を選んだのだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら