P-1哨戒機の対英輸出計画は「画餅」である 武器輸出で華々しい成果を狙い過ぎ

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そうしたなか、冒頭に記したように、小野寺元防衛相は英国でP-1の売り込みを行ったわけだ。小野寺氏は、P-1哨戒機だけでなく、ステルス戦闘機F35の運用にも言及し、「日本とイギリスは航空機の分野で協力できる可能性がある」と訴えている。

しかし、英空軍がP-1の採用をするとは思えない。独自開発を指向したニムロッドMR4の採用を断念したことで、コストの高い哨戒機には懲りている。

筆者が昨年7月に取材したファンボロ-エアショーで英空軍向けに提案されたニムロットMR2の後継機はサーブ、エアバス、L3などが提案しているが、いずれも低コストのターボプロップのコミューター機や輸送機をベースにしている。ボーイングはP-8とともに、より安価なP-8の哨戒機能をボンバルディアのリージョナルジェット機、チャレンジャー605に移植したモデルを提案している(同機には対潜攻撃能力はない)。

防衛省の先述の高官は「P-8を採用しても米軍はシステムをブラックボックス化して技術情報を開示しない。このため英国内の防衛産業には仕事は落ちないが、P-1の機体だけを採用しシステムを内製化すれば地元企業の雇用に貢献できる」と述べている。もし、そうであれば既存のターボプロップ機、あるいは米軍あるいは海自で余剰となったP-3Cを延命させて、独自のシステムを搭載した方が効果的だろう。

カナダ空軍のCP-140オーロラはP-3Cをベースにしている(写真:カナダ空軍)

実際、カナダやノルウェーは既存のP-3Cの近代化と延命化を施している。これらはカナダのIMPエアロスペース社が行ったもので、P-3Cの主翼や尾翼新造品と交換することによって、ほぼ新造機に近い1万5000時間の飛行時間延長を実現している。

カナダ軍はP-3CをCP-140オーロラとして採用しているが、同社の近代化パッケージをすべてのCP-140に施して、延命している。ノルウェー海軍のP-3Nもこの近代化によって延命されている。

P-3Cを延命化すればムダのない提案に

日本が哨戒機の輸出を行うのであれば、P-1ではなく海自の中古のP-3Cの主翼を交換するなどして、延命化したものを提案すべきだ。主翼の交換は川重傘下でP-3Cの整備を行っている日本飛行機が可能だろう。さらにエンジンやコックピット、システムを換装してもいいだろう。それでもP-1より一桁安く上がる。エアバスやロッキード・マーチンなどもP-3C近代化のパッケージを提案しているので、機体だけ輸出し、改修は地元のBAEシステムズ社などにまかせる方法もとれる。

現在、80機以上ある使用可能な機体をスクラップせず、有効利用することにも繋がる。この案は日英両国の納税者にとって魅力的ではないだろうか。もちろん英国以外にも提案可能だ。

安倍政権は武器輸出の実績を作りたいがために、防衛省や経産省にハッパをかけてインドへの飛行艇US-1や英国へのP-1の輸出など「華々しい成果」を期待しているようだ。だが、武器輸出初心者である我が国はもっと地道なところから輸出の実績作りを行うべきだ。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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