ウクライナ情勢と第2次大戦前との不気味な相似 世界最悪の1938~41年の歴史から何が学べるか

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この独ソ不可侵条約こそが「欧州情勢は複雑怪奇」と言わしめたサプライズでした。当時のイギリス、フランスからすればソ連も一緒にドイツを抑えてくれると期待していた。そのソ連がドイツに協力する側に回ったのです。

実は紳士的で弱腰なチェンバレンを見て「与しやすし」と考えたのはソ連のスターリンも同じだったのです。これを現代に例えるならロシア侵攻で民間人の殺戮や化学兵器の使用が疑われても兵力を投入しないアメリカやNATOの動きを遠くから眺めている国々があるということです。

ロシアのウクライナ侵攻では世界が非難に回る一方で、棄権に回った大国が中国とインドでした。もし仮に、欧米や日本がロシア制裁に動く中で、ロ中印相互協力条約が締結されるようなことがあったとしたら、それは1939年の独ソ不可侵条約と同じインパクトを世界に与えるでしょう。

予測不能なサプライズが起こる可能性はある

中国やインドからすればたとえロシアが悪いとしてもここまでの経済制裁はやり過ぎだという立場表明はありえます。ロシアが経済制裁によってデフォルトの危機に陥る前に、資金や物資を提供することで貸しをつくる一方で、逆に中国やインドが隣国との紛争で世界から孤立しかけた場合に、金融面や貿易面で協力体制を約束してくれればそれは国益としてはメリットがある話です。

3月2日の国連でのロシア撤退要求決議では反対ないし棄権に回った国の数は40カ国でした。中国とインドはともに棄権です。ところが4月7日の国連人権理事会でのロシアの資格停止には棄権・反対は82カ国に増え、中でも中国は棄権ではなく反対に回りました。国際社会の中でロシアを孤立させるべきではないと考える国の動き次第では、1939年のような予測不能なサプライズが起きる可能性は十分にありうると考えるべきです。

さて今のロシアへの制裁は当時のドイツ情勢とはまた違う形で、1939年時点で日本が受けていたABCD包囲網による経済制裁から1941年のハル・ノートにつながる一連の状況とも酷似していることも歴史の類似点としては不気味です。

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