そして、体育館の残りの半分が、簡易ベッドが並ぶスペースとなっており、ここに坂氏が考案した紙管を使った間仕切りシステム(PPS=Paper Partition System)が設置されています。4本の紙管と梁を利用した空間は2メートル四方で、それぞれの梁に布をかければ周りからの視線も気になりません。通路に面したカーテンを閉めれば、そのユニットには人がいることがわかります。
紙管は世界中どこでも安価で簡単に入手可能なほか、布は梁にかけて安全ピンで止めればいいので切りっぱなしでも使えます。今回は落ち着いた色合いの丈夫な布が布会社から寄付されました。最低限の条件はあるものの、何より材料が体育館まで届く早さを重視した、とパリ坂事務所初期からのフランス人スタッフ、マーク・フェラン氏が言います。
1ユニットには簡易ベッドが間を空けて2台置かれています。42ユニットが設営されているので最大収容人数は84人。筆者が訪れた日、体育館に滞在していたウクライナから避難してきた人は数人で、それぞれ数ユニットの間を空けていました。
PPSの設営には学生が参加
今回、設営にはヴェルサイユ建築学校の学生が、パリの坂事務所のスタッフの指導のもと参加。「建築では食べていけないかもしれない」という理由でフランスでは建築の夢を追う男子学生が減り、坂氏によると今や建築学科では女子学生の割合が多いといいます。
設営が行われていた12区の体育館でも多くが女子学生でしたが、PPSの組み立ては素材が軽量で組み立ても簡単で、まるでタイムラプスを見ているような速度で仕上がっていきました。
簡単に設営可能なPPSを目の当たりにして、市や区の担当からも驚嘆の声が上がり、今後はホームレスの仮滞在所などにも転用できるかもしれないという議論も生まれていました。
紙のギャラリー(1994年、東京・渋谷)や、ポンピドゥー・センター・メス(2010年、フランス、メス)、スウォッチ・グループ新本社(2019年、スイス)など数々の建築を設計し、2014年には「建築界のノーベル賞」とも呼ばれるプリツカー賞を受賞した坂氏が、難民や被災者支援の活動も行っていることは、東日本大震災などを機に日本でも広く知られるようになってきました。
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