ウクライナ人避難者救う「日本人建築家」の発明 坂 茂氏が世界中で避難所支援に力を入れる訳

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坂氏が支援活動を始めたのは1994年。民族紛争によるルワンダ難民の窮状が連日報道される中で、雨季で寒くなってもプラスチックシートのみの簡易なシェルターのみで肺炎が流行っているというニュースが流れました。

経済的に余裕のあるクライアントのための仕事だけでなく、困っている人の役に立つ活動を模索していた坂氏は、現地で支援活動の中心となっていた国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に断熱性に優れた紙のシェルターを提案。

当初の提案は受け入れられませんでしたが、環境問題やコストの面からUNHCRが注目した紙という素材を発展させ、紙管を使った坂氏のシェルターは翌春UNHCR公式のプロジェクトとなり、緒方貞子高等弁務官(当時)からも高く評価されました。

数々の地震や災害現場で使われてきた

こうして「作品づくりと社会貢献の両立」を目指す坂氏の支援活動は瞬く間に世界規模の活動となり、1996年には専用のNPO法人ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク(VAN)を設立しました。

前後して阪神・淡路大震災(1995年)や、トルコ西部大地震(1999年)のほか、新潟県中越地震(2004年)、アメリカ・ルイジアナ州を襲ったハリケーン「カトリーナ」(2005年)から東日本大震災(2011年)まで、坂氏は世界中の震災などの被災地にできるかぎり最早で現地入りし、各地の状況に沿った支援活動を続けてきました。

今回はパリ市がウクライナ難民の受け入れを行うというニュースを知ったパリの坂事務所が市にPPSの提案を行い、体育館への導入が実現しました。

坂氏がウクライナ難民の支援活動でPPS設置を開始したのはその2週間前、ウクライナに隣接し最も避難してくる人数が多いポーランドでの2カ所でした。今後もポーランドではさらに需要があるため設置準備中とのことですが、ここで思わぬ問題に直面していると坂氏は言います。

これまで坂氏がPPSを設置してきた国ではこうした問題が起きたことは一度もないそうですが、ポーランドでは消防局が紙管を不燃化するよう要請してきたというのです。

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